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奪われる頭脳よみがえる悪夢

171・杠の誤算(1)

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 その時の杠のことを歴史家は「工作員が首相という地位を使って困難な作戦を遂行した」と評したが、その当時の世間は歴史的低支持率で迎い入れていた。元々3ヶ月だけの選挙管理内閣の首班で期待すべき事はなにもなかったし、風見鶏政治家と揶揄されていたことも理由だった。

 杠は二十一世紀初頭はいわゆる「ネットウヨブロガー」で有名だった。その当時は反蔡国言論で有名で、企業を恐喝したとして実刑判決を受けたこともあった。それが、ある出来事をきっかけに工作員に転向し「欺瞞に満ちた偽りの平和な13ヶ月」以後は政治家を表の顔、工作員を裏の顔として活動した。表の顔では死刑制度の廃止と全身拘束刑の導入を主導したが、その直前に大勢の元ネットウヨ系の人物に死刑執行命令を出したことで、悪名高かった。

 「首相! 臨時国連総会に出席するのですか?」

 松林官房長官がチリチリの髪の毛を揺さぶらせながら執務室に入ってきたのは選挙翌日のことだった。松林が所属する政党は僅差破れ首班になる可能性はなくなったことでショックのはずだったが、杠が任期が二週間を切ったにもかかわらず国を代表して出席するのが信じられなかった。

 「しかたないだろう。首班指名は予定通りだろ? 前倒しは私が急死もしくは意識不明にならなければ出来ない。そう、記載されているだろう」

 そういって指し示したのは各党による選挙管理内閣組閣時に締結された協定書だった。それを読んだ松林はどうしようかと困惑していた。

 「そうですが・・・」

 「まあ案ずるな、次期首相が有力視されている彼も同行させるから。これからの二年は彼がやるのだから、外交デビューでいいだろう。君でなかったのは残念でしかたないが」

 杠は次の首相にしたかった彼女でないのが誤算だった、なぜなら次の有力な首相候補は「奴ら」の影響下にあるのは間違いなかったから。
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