上 下
189 / 198
奪われる頭脳よみがえる悪夢

168・首相と全身拘束刑の女(1)

しおりを挟む
 愛莉は何故か懐かしさを感じていた。でも、理由は分からなかった。なにか本能的な感情がそうさせている気がした。初対面なはずなのに。それは目の前の初老の男も同じだった。

 「はじめまして山川愛莉さん。私がゆずりは信一郎です。今回は色んなことで大変な想いをさせて申し訳なく思っている。とりあえずそこに座って話をしましょう」

 にっこりしてそういうと三人とも席に座った。実は愛莉は杠が首相だという事を知らなかった。杠が首相に就任する直前に身柄を拘束され、全身拘束刑に処せられている最中に就任したので、知るはずはなかった。

 「杠さん。あなたは闇の司法長官をされておられるそうですが、何故私が冤罪だと分かっていたのに全身拘束刑を止めてくれなかったのですか? それって酷いじゃないですか? まだ恋もしたことないのに、身体があんなことにされたのでは、お嫁に行く事は出来ない・・・」

 愛莉は少し涙ぐんでいた。全身拘束刑を受けた時の事を思い出していた。身体が改造され機械と同様にされる時の痛みと苦しみ、人間でなくなったことを。

 「それは・・・すまないと思っている。色々と事情があってそうなったんじゃ。取り返しがつかない事になったのは分かっている。だから、可能な限り元の姿に戻すから」

 杠はそういったが、彼も愛莉の身体の機能の一部は不可逆的な改造を受けているのを理解していた。それは愛莉も同じだった。唯一の救いといえば生殖機能が温存されているぐらいだった。それは生体のホルモンバランスを保つための措置であったが。

 「そういわれても・・・愚痴をいうのはやめます。きりがないですから。ところで、なぜわざわざ私をこの空間に呼んだのですか? 最初に依頼された事をしたはずですよ。なのに何故?」

 愛莉はいつの間にか目の前に出現したグラスに手を伸ばしていた。ガイノイドの姿に改造されてから、仮初でも人間と同じように楽しめるのはこの空間だけだから。

 「それなんだが・・・予定では、もう終わるはずだったか、私と一緒に来てもらいたいところがある」

 杠はそういうと、地図を広げた。それは南中華海周辺のものだった。そして指さしたのは巨大な海上都市だった。

 「ここの、グレートベイシティに一緒に来てもらいたい。私の側近ロボとして」

 「側近ロボ? なんですか、それって・・・もう少しこのままでいろというのですか?」

 愛莉は杠に言われたことが信じられなかった!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

機械娘フェチ作品撮影!

ジャン・幸田
SF
 わたし、とあるプロダクションに所属するモデルだったの。一応十八禁作品出演OKとしていたけど、恥ずかしかったの。  そいで顔出ししないでもいいという撮影があったので行ってみると、そこでわたしはロボットのようになれということだったの。わたしはガイノイドスーツフェチ作品に出演することになった。

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。

ロボットウーマン改造刑を受けた少女

ジャン・幸田
SF
 AI搭載型ロボットが普及した未来、特に技能のない人間たちは窮地に陥っていた。最小限の生活は保障されているとはいえ、管理され不自由なデストピアと世界は化していた。  そんな社会で反体制活動に参加し不良のレッテルを貼られた希美は保安処分として「再教育プログラム」を受けさせられ、強制的にロボットと同じ姿に変えられてしまった! 当局以外にはロボット以外の何者でもないと認識されるようになった。  機械の中に埋め込まれてしまった希美は、ロボットウーマンに改造されてしまった!

バイトなのにガイノイドとして稼働しなくてはならなくなりました!

ジャン・幸田
SF
 バイトの面接に行ったその日からシフト?  失業して路頭に迷っていた少女はラッキーと思ったのも束の間、その日から人を捨てないといけなくなった?  機械服と呼ばれる衣装を着せられた少女のモノ扱いされる日々が始まった!

昼は学生・夜はガイノイド

ジャン・幸田
SF
 昼間は人間だけど夜になるとガイノイドに姿を変える。もう、そんな生活とはいったい?  女子校生のアヤカは学費と生活費を出してもらっている叔父夫婦の店でガイノイド”イブ”として接客していた。そんな彼女が気になっていた客は、機械娘フェチの担任教師の風岡だった!   彼女の想いの行方はいかなるものに?

処理中です...