冤罪！ 全身拘束刑に処せられた女

三姉妹との邂逅

１４４・惨劇（３）

　愛莉たちの目の前で惨劇が繰り広げられていた。人々は逃げまわりそれでも容赦なく無慈悲な銃弾の洗礼を浴びせられた。あるものは鮮血を噴き上げ肉片を飛び散らせ動かなくなっていった。唯一の救いといえば凶行の下手人が完全に息の根を止める行為をしなかったことだ。それは次から次へと被害者を増やすだけのことであった・・・

　この光景はアーカイブであり、結果を変えることはできないし、止めることは当然不可能であった。愛莉と淳司の二人はこの世界では幽霊みたいな存在であった。傍観することしかできなかった。

　令和の虐殺魔の男に対し、抵抗する者は骸にされ、乱大勢の群衆は様々な恐怖による反応を示し、愛莉にとって聞きたくのもない断末魔といえるような叫びで満たされていった。そんな群衆の中に若い丹下教授の姿を見つけた。

　当時の丹下教授は死刑制度を強く支持している著名な犯罪学者であった。この国の刑事政策に強い影響力を持っていて、死刑制度を廃止しようとする者たちを強く非難していた。その丹下教授がまさに犯罪被害者遺族になる瞬間がやってきた。

　丹下教授は妻と娘と一緒であったが、逃げようとして転倒した娘を助けていた。その時、あの男が来た。二人を庇おうとして立ちはだかったが、しかし・・・それは何の役にも立たなかった。

　なぜなら丹下教授の身体を貫いて二人の急所を打ち抜いてしまった！　丹下教授は腕や足を撃たれて血を吹き出していたが、守ろうとした家族は致命傷を負っていた。そのとき教授は激痛に意識がゆがみながらも令和の虐殺魔にこう怒鳴った。

　「貴様！　死刑になりたいのか！　なぜこんなことを！」

　丹下教授は恐ろしい形相で睨んだが、奴は平然とこういってのけた！

　「死刑か？　もうここまでやるぐらいからなりていな！　どうせ十人殺そうとも百人殺そうとも一緒だしな！　俺は死刑になって死にたいし、その前に無茶苦茶にしたいだけさ！」

　そう捨てセリフをいうと、奴は新たな獲物を求め乱射していった、それはまさに悪鬼の如きであった。それまで丹下教授は命を奪った者を死刑にするのは正義だと信じていたが、その確信は崩れ去ったという。他者だけでなく自己の生命すら価値を見出さず死刑を望むような奴のような殺人者を死刑にしても被害者遺族として感情を慰める事はできないと思い知らされた。自分が死ぬことを望んで人を殺すような奴に死は無意味だと。死刑よりも恐ろしい目に遭わせるのが正義だと。