冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

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三姉妹との邂逅

141・2019年のクリスマスイブ(4)

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 愛莉は今みている光景が繰り広げられた頃はまだ母親のお腹にいたはずだった。物心ついたときには世界は絶望的だった。深刻な経済不況と自然災害と疫病の感染拡大、複数の国の対立とテロ組織の暗躍。そんな人類の危機に対し主要国は自国第一主義が蔓延し一切の協力が出来なかった。民主主義国家は煽動政治家による衆愚政治に陥り、いわゆる独裁国家は指導者の個人崇拝による機能不全に陥っていた。坂道を転げ落ちていくように状況が悪化するのは、幼い愛莉でもなんとなくわかっていた。

 だから、全寮制学校で思春期を迎えた頃に当時の事を振り返ってみて分かった事。全ては2019年が歴史の分岐点だったことだ。少なくとも悲劇の13日間前で真面であった最後の年であったといえるから。

 その年のクリスマスイブに令和の虐殺魔による惨劇が発生した。その動機は「死刑制度に賛成する連中を沢山殺せば確実に死刑になれるから」という驚愕のものであった。また、その手段も驚くべきものであった。重火器を入手するのが困難なはずなのに、実行犯の男はそれを使ったから。

 癒しのコンサートの予定されていたプログラムは順調に進んでいた。会場にはチャリティーということでほぼ満員のおよそ1000人の観衆がいた。愛莉の電脳の記憶が正確であれば、蔡国出身の女性ピアニストによる独奏が終わった後、交響楽団による交響曲の演奏が始まったとき、襲撃が始まったという。激しい演奏と重機関銃による銃撃が重なったことで多くの観衆が勘違いしたとされていた。

 その時、運命のピアノの独奏が始まった。それは幻想的なオリジナル楽曲で「常世の愛」というものだった。その楽曲を聞いて愛莉はうっとりしてしまったが、それは会場内の誰もと同じだった。そのとき、ふとピアニストの顔を見ると愛莉はドッキとした。どこかで見たことがある顔だと! しかも極最近出会った顔だと!

 誰なんだろうと記憶を検索してもなかなか浮かび上がらなかった。そして演奏が終わり群衆がスタンディングオベーションで立ち上がった時に朧気ながら顔が一致しようとしたときのことだ。そのピアニストと目が合った。その時愛莉は大きな衝撃を受けた!
 
 「あ、あの女は! あの!」

 その時のピアニストの女の笑顔の中に狂気のようなものを感じ愛莉は戦慄した! その直後、惨劇が始まる事ではなく、その顔に!
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