冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
100 / 198
迷宮魔道な場所へ

91・怒る愛莉!(3)

しおりを挟む
 そう発言した愛莉は自分の身体が鉛のように重くなってくる感覚に気付いた。そうやら仮想現実内の愛莉の設定が改変されているようであった。すると淳司は立ち上がって自分のデスクに座った。今いる仮想現実は丹下犯罪学研究所によく似た空間であったが、そのデスクは実際のものとは違っていた。

 「そうだよ愛莉ちゃん。君は今感じている身体の感覚も思考パターンも全ては干渉可能なものさ。でも、それは現実世界でも一緒だと思わないか? 周囲からもたらされる情報がもし間違っていたり恣意的に虚偽なものであったら、どんな結果を招くのか分かるだろう。
 それと同じように、真実だと思っていても間違っていたなんてよくある話さ。たとえば理工学部で君がしでかしたとされる国家機密漏洩事件なんか。あれなんか君は犯罪行為しているなんて思っていなかっただろう? 君は正しい事をしているのだといわれていたんだろ、あの研究所で」

 淳司が指摘するように、あの時は国防省をハッキングしているのは分かったけど、全ては研究のためだ国防省のセキュリティー強化に役立つものだと信じていた。だから逮捕された時は嵌められたと思った。それで得られたといえば全身拘束刑によって機械化された身体であった・・・

 「そうねえ、そうよ。マスコミで大騒ぎになっているわねと思っていたら捕まってね。自分はしていないと言ったけど証拠らしいものをつきだされてね。でも、あの時って何故か覚えていないのよ」

 愛莉は逮捕から最後に判決を言い渡されるまで記憶が曖昧な事に気付いた。それが意味するものは?

 「やっぱりな! 君の全身拘束刑執行の記録を確認すると、君自身どうやらいろんな措置を受けているようだ。それらの詳細は分からないが、どうも君の脳幹細胞などを摘出しているようだ。おそらくエキゾチック・ブレインに使用される人造神経などは君のコピーかもしれない。いわば君はエキゾチック・ブレインの人身御供かもしれない」

 淳司はそういって、床に座り込んでいる愛莉に一枚の写真を見せた。その写真に見覚えがあった。ハッキングして高度な暗号プロテクトを解除して最初にみた画像データにあったものだ。

 「それは?」

 「これはな、あの世界同時サイバーテロに使われたエキゾチック・ブレインが製造されている時のものさ。その写真の中央にいる女の顔に見覚えないか? 愛莉ちゃん?」

 エキゾチック・ブレインは人体組織由来の脳細胞を多数連結したニューロンコンピューターで、その中心には統括する三つの電脳が納められるユニットがあったが、そこに記念撮影している三人の研究者が映っていたが、その三人は親子のようにもみえた。

「これって、もしかしてタオ先輩?」

 愛莉はそう言ったが、タオ先輩にするにはおかしなことがあった。年齢が合わないのだ。エキゾチック・ブレインが破壊されたのは八年前で製造開始されたのはそれよりも前の2020年代前半、いまから二十年ぐらいまえだ。しかし、その顔は今のタオ先輩に髪型以外は同じだった。


 「そうだ! 帝央大学理工学部の研究員タオ・イムジュだ! 我が国の住民登録記録では23歳とあるが、俺が依頼した画像分析によれはほぼ同一人物のようだ。その女はオ・レンユウといってな、麗華科学アカデミー所属の科学者で、純粋水爆および生体量子コンピューターの基礎理論を生み出したやつさ!」

 愛莉はそのオ・レンユウという個人名を不快に思った。あの世界同時サイバーテロの首謀者とされていたから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

昼は学生・夜はガイノイド

ジャン・幸田
SF
 昼間は人間だけど夜になるとガイノイドに姿を変える。もう、そんな生活とはいったい?  女子校生のアヤカは学費と生活費を出してもらっている叔父夫婦の店でガイノイド”イブ”として接客していた。そんな彼女が気になっていた客は、機械娘フェチの担任教師の風岡だった!   彼女の想いの行方はいかなるものに?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バイトなのにガイノイドとして稼働しなくてはならなくなりました!

ジャン・幸田
SF
 バイトの面接に行ったその日からシフト?  失業して路頭に迷っていた少女はラッキーと思ったのも束の間、その日から人を捨てないといけなくなった?  機械服と呼ばれる衣装を着せられた少女のモノ扱いされる日々が始まった!

機械娘として転移してしまった!

ジャン・幸田
SF
 わたしの名前、あれ忘れてしまった。覚えているのはワープ宇宙船に乗っていただけなのにワープの失敗で、身体がガイノイドになってしまったの!  それで、元の世界に戻りたいのに・・・地球に行く方法はないですか、そこのあなた! 聞いているのよ! 教えてちょうだい!

人形娘沙羅・いま遊園地勤務してます!

ジャン・幸田
ファンタジー
 派遣社員をしていた沙羅は契約打ち切りに合い失業してしまった。次の仕事までのつなぎのつもりで、友人の紹介でとある派遣会社にいったら、いきなり人形の”中の人”にされたしまった!  遊園地で働く事になったが、中の人なのでまったく自分の思うどおりに出来なくなった沙羅の驚異に満ちた遊園地勤務が始る!  その人形は生身の人間をコントロールして稼動する機能があり文字通り”中の人”として強制的に働かされてしまうことになった。 *小説家になろうで『代わりに着ぐるみバイトに行ったら人形娘の姿に閉じ込められた』として投降している作品のリテイクです。思いつきで書いていたので遊園地のエピソードを丁寧にやっていくつもりです。

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。  どちらかといえば、長編を構想していて最初の部分を掲載しています。もし評判がよかったり要望があれば、続編ないしリブート作品を書きたいなあ、と思います。

処理中です...