冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

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迷宮魔道な場所へ

78・潜在意識の闇の中で

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 一時的に自我をシャットアウトした愛莉は深い眠りに落ちているようになっていたはずだった。しかし、そこは深い潜在意識の闇の中だった。身体を失い魂だけの存在になった錯覚がした。それにしても人間に本当に魂という物があるのだろうか? 死んだらどこに行くのだろうか? そんなことは死んでみないと分からない事だし、分かったところで生きた人間に伝える事など出来ないものだ。

 「ふーん、電脳のブラックボックスなのよね。それにしても外はどうなっているのかしら?」

 照射ビームを察知した時、咄嗟にエリーの統括システムにコントロール権を委譲し、愛莉は外部からアクセスできない部位に逃げ込んだ。おかげで限られた自我しかないし、外の様子は分からなくなってしまった。あとは探査が終了して正常に復帰システムが作動するのを祈るしかなかった。

 「ここは、光のない世界だわ。何も刺激も情報も来ないし」

 この状態を愛莉はこう思ってしまった。ここは”無間地獄”なんだと。いささか宗教的な表現かもしれないが、そういうしかなかった。深い闇と底深い空間、そして虚無というか虚数的な場所にいるとしか感じられなかった。身体の感覚はないし限られた思考しかできない、死んだ後の世界もしくは生まれる前の世界のようであった。

 「あの機械教授か・・・考えてみれば私を機械に改造したのは理工学部関係者全員に疑いあるわよね」

 その時、ある先輩の顔が浮かんだ、タオ先輩だ。彼女は麗華からの留学生であったが、母が日本人で日本語も堪能だった。それにかなりの美人だった。黒曜石のような漆黒の長い髪の毛、左右対称の完璧な顔の輪郭、背が高く美しいボディライン。同性の自分が見ても嫉妬するし、男だったら良かったのにと思うほど性格が良かった。まだ右も左も分からない自分をサポートしてくれた・・・

 「そうよねえ、タオ先輩も被疑者よね? でも信じたくないよね、はめられてしまったなんて。信じたいよね・・・だけど」

 この時、愛莉は客観的でなく感情だけで判断しようとしている事に気付いた。タオ先輩だけは信じたい、全身拘束刑に自分を陥れて機械にしたなんて信じたくないしあってはならないことだと。

 「ふー、なんだか嫌よね! みんな疑わしいし疑わないといけないなんて! でも、探さないといけないわ。きっと私の電脳を奪おうとするのが本星もしくは手下だろうね。本当に誰なんだろうか?」

 愛莉の思考は暗闇を彷徨っていた。まるで幽霊みたいに。その幽霊が感じるのはタオ先輩の笑顔の記憶のみだった。逮捕される直前までの。
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