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(閑話)真由美の放課後

全てが終われば

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 「なんでなのよ・・・なにが起きているというのよ・・・お姉ちゃんが何をしたというのよ」

 真由美が泣き崩れたので話は中断してしまった。泣き出した時、店の客室係や警備ロボが入ってきたが、全員また外に追い出して、中は三人だけになっていた。車椅子の少女の両隣りには老境を迎えた男が立ちすくんでいた。

 「ゆずりは、お前時間大丈夫か? 残りはワシが娘に言い聞かせてやってもいいんだぞ」

 安養寺CEOの言葉から真由美は自分の父も愛莉が今どうなっているのかを知っているのだと分かった。

 「社長、私はただの国家の管理人。代わりはいますよ、今は勤務外ですから。ですが話は続けなければいけない、最後まで伝えたいことがあるから真由美さんに」

 真由美を介抱して気分が落ち着くように彼女が好きなチーズケーキを差し入れてもらった。それは愛莉が好きなものであった。気分は落ち着いたようであったが、涙を浮かべながら口にしていた。

 「これって、お姉ちゃんが好きなものなんよ! お姉ちゃんは食べたことがないからと言っていたから一緒に食べたら気に入ってくれてね。そしたら機会があれば一緒に食べてね。でも機械になっていたら食べれないのよね。可哀そうなお姉ちゃん!」

 真由美は愛莉をお姉ちゃんと呼んでいる事に気付いていなかった。それぐらい言葉使いを警戒していなかった。

 「そうなんだね、早く一緒に食べれるようになればいいよね。取りあえず私の配下の者が愛莉さんを保護しているから、大丈夫さ。これから多少問題が起きるかもしれないけど、私の在任期間が終わるまでには解決できるようにするから。だから信じてくれないか?」

 「うん・・・分かった」

 真由美は幼い少女のように顔を赤く染まっていた。とても18歳になった少女の顔ではなかった。

 「これからいう事は誰にも口外してもらいたくない。来週、帝央大学で開催される私の講演会の時に、事態が動きそうなんだ。その時、愛莉さん、いや君のお姉ちゃんの無実が証明できるかもしれないんだ。だから、それまで辛抱してくれ、頼むから!」

 杠はそういったが、結局なんで愛莉が全身拘束刑によるボディの機械化をされなければならなかったかという事を教えてくれなかった。でも、どうやら今まで通りしなければならないという事はわかった。

 「分かりました、杠さん」

 チーズケーキを食べ終わったところで、セバスチャンが呼ばれ真由美は先に帰宅した。残された二人の男は別の場所へと向かった。そこは場末の飲み屋で、寂れた町はずれにあった。その飲み屋に入った時にいた客は安養寺CEOに現金を渡され何処かにいってしまった。

 「社長、本当にあれでいいんですか? 本当なら愛莉さんの事をもっと開示してもよかったのですよ」

 杠は飲めない酒を飲んでいた。この飲み屋は安養寺の鉄工所で働いていた時に連れてこられたところだった。

 「杠、無理して飲まなくてもいいんだぞ。それと同じようにリスクを増やすこともあるまい。それにしても、あいつがあの山村愛莉の事を想いこがれていただなんて。あれじゃ百合百合じゃねえかよ。それはともかく、進捗状況はどうなっている?」

 「それですが、あんまり芳しくないものでして。連中は政府に深く浸透しているのは間違いないので、確実にホワイトな奴しか使えませんから。取りあえず司法省行刑局の局長を栄転ということにして交代させたので、愛莉さんの全身拘束刑の解除は進んでいるのですが、戦略自衛隊と帝央大学理学部と例の会社によるエキゾチック・ブレイン再建はほぼ完了しているようでして、後は中枢に誰かの電脳を挿入して起動確認できればいいようです」

 その場には飲み屋の主人すら出て行ったので二人だけになっていた。話が可能な限り漏洩しない場所として選んだのがここだった。

 「そうか・・・ゲームセット寸前だなそれは! で、本星は?」

 「本星は、二人まで絞れています。一人は麗華の人体実験をでっちあげたやつ、そしてもう一人は・・・」

 杠は誰かの名前を言ったが、はっきりとした言葉ではなかった。

 「そうか、あいつか。これから世界を復興しさらに発展できる力があるのになあ」

 「そうだな。だからこそエキゾチック・ブレインを手中にしたかったんだといえる。稼働したら、とりあえず現存する政府を消滅させるだろうな。そうなれば、人類の多くが粛清されるかもしれない。それだけは防がないとならない。そのために、やりたくもない首相の地位に就いたのだからな!」

 杠は強い酒をグラスに注ぐと一気に飲み干してしまった。そして飲み屋を出て行った。残された安養寺CEOはタブレットで確認していた。それは愛莉の今の姿のガイノイド・エリーの機体稼働状況だった。

 「全てが終われば、全て元通りになればいいんだがな。この愛莉という娘はなんとかなるにしても、真由美はこの事件を生き延びる事ができるのだろうか・・・そうしなくちゃならないなあ」

 彼の脇には酒のボトルが何本も転がっていた。
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