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(閑話)真由美の放課後
顔に傷がある男
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杠という男はごく平凡な人相をしていて、特に強烈な個性を発揮することもなく、政治家としては完全な調整型だった。世間ではそのように評価されていた。だから政権を担ってきた連合与党によって白羽の矢が立てられた。彼に対し誰もが期待する事はなく、ただ次期総選挙までの選挙管理内閣を担って無難に終わってもらいたいというのが世論の見方であった。
そんな杠内閣最大のスキャンダルが戦略自衛隊が麗華民主共和国で兵器開発のための人体実験に関与したのではないかという疑惑だった。そのスキャンダルで杠内閣の支持率は10パーセント後半まで下落、おかげで次期総選挙後の政権の枠組みの主導権争いで政権の求心力が失われていた。おまけに本人は75歳になるのを理由に政界引退を表明していたのでなおさらだった。世間から彼は首相としては有名無実な存在だと看做されていた。
そんな不人気な首相が目の前にいることに真由美は戸惑っていた。どちらかといえば政治に興味のない真由美であるが、彼の評判で良いモノなんか聞いたことはなかった。だからどう接すればいいのか分からなかった。
「真由美さん、そんなに緊張しなくてもいいですよ。わたしはもうすぐ引退する身なんですから。ただのそこらへんのおじさんと一緒と思ってくださればいいですから」
杠は動画で見た事のない愛想のよい笑顔を振りまいていた。しかしその顔には深い傷があった。どうしてもそちらの方に真由美の視線はいっていた。
「そうですか。では杠さんでいいですか?」
真由美が緊張気味にいうと後ろから父が近づいて来た。
「いいんだよ、真由美! そいつはいまじゃ首相閣下などと呼ばれているが、昔はうちの工場で働きながら大学に通っていたんだよ! お前がいま通っている帝央大にな! しかも法学部に!」
「それじゃあ、私の先輩なのですか?」
すると杠はニンマリとしてこう言いだした。
「あなたの先輩ですよ私は! そうそう、あなたが今私に聞きたいことがあるんですよね、この顔の傷でしょ!」
それは図星であったが、そうだというのも憚られることであった。真由美からすればどうして足がないのかを説明するほど苦痛なことは無いと思っていたから。だから、はっきりと言葉に出来なかった。
「それは・・・なんていえば?」
そんな真由美の気を知っているはずなのに彼はつづけた。
「この傷を負った時に、私の父が殺されたのですよ。父は私を通り魔からの刃から守ってくれたから、今こうしてお話を出来るわけです」
杠は自分の顎に残された酷い傷を擦った。
そんな杠内閣最大のスキャンダルが戦略自衛隊が麗華民主共和国で兵器開発のための人体実験に関与したのではないかという疑惑だった。そのスキャンダルで杠内閣の支持率は10パーセント後半まで下落、おかげで次期総選挙後の政権の枠組みの主導権争いで政権の求心力が失われていた。おまけに本人は75歳になるのを理由に政界引退を表明していたのでなおさらだった。世間から彼は首相としては有名無実な存在だと看做されていた。
そんな不人気な首相が目の前にいることに真由美は戸惑っていた。どちらかといえば政治に興味のない真由美であるが、彼の評判で良いモノなんか聞いたことはなかった。だからどう接すればいいのか分からなかった。
「真由美さん、そんなに緊張しなくてもいいですよ。わたしはもうすぐ引退する身なんですから。ただのそこらへんのおじさんと一緒と思ってくださればいいですから」
杠は動画で見た事のない愛想のよい笑顔を振りまいていた。しかしその顔には深い傷があった。どうしてもそちらの方に真由美の視線はいっていた。
「そうですか。では杠さんでいいですか?」
真由美が緊張気味にいうと後ろから父が近づいて来た。
「いいんだよ、真由美! そいつはいまじゃ首相閣下などと呼ばれているが、昔はうちの工場で働きながら大学に通っていたんだよ! お前がいま通っている帝央大にな! しかも法学部に!」
「それじゃあ、私の先輩なのですか?」
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「この傷を負った時に、私の父が殺されたのですよ。父は私を通り魔からの刃から守ってくれたから、今こうしてお話を出来るわけです」
杠は自分の顎に残された酷い傷を擦った。
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