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(閑話)真由美の放課後
招いていない客
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自分に母の記憶が殆どないことで、言えることといえば、足を失う以前の記憶をほぼ喪失しているということであった。真由美はそう思うしか出来なかった。だからこそ、自分の親よりも長い時間を過ごして来た愛莉はかけがえのない存在だった。でもいまはどこにいるのだろうか?
明日は理工学部に見学と称して愛莉の手がかりを探しに行くつもりだった。出来ればそこで出かがりを見つけて、三日後にある杠首相の講演会までには何かの目途をつけたかった。もっとも、そんなふうに都合がいい事にならない事は分かってはいたが、何もしないでいられなかった。
そのとき、タブレットに緊急の連絡メールが送られてきた。それは杠首相の講演会の期日延期だった。なんなんだよそれって思ったが、延期なので来週同じ曜日に設定されると聞いて安心した。それは解決までの期日が伸びた気がしたからだ。でも、それだけ愛莉に再会できる日が遠のいだのかもしれないが。
それはともかく、セバスチャンは旧市街中心部にある中華街へと向かっていた。ここは自宅から遠く離れていたうえに、雰囲気が暗かった。
「本当にパパはこんなところに呼んだの?」
真由美は運転席にいるセバスチャンの背中をたたいた。
「はい、そうです! サプライズだそうですよ!」
セバスチャンはにっこりと振り返った。この車は自動運転システムなので運転席に座っていても運転に関与していないので、こんなことも出来るのだ。
「さ、サプライズ? さてはパパは自分が好きなものを食べたいからかしら?」
真由美は父が大の中国料理好きなのを思い出した。よく本場を食べに行くのだといって誘われるのだが、真由美にはどうしても脂が多い料理が苦手なので、大抵は断っていた。でも、今日はそれさえも出来ないように連れてこられた。それに、わざわざイブニングドレスに着替えさせたのだから他に真由美にとって招からざる客がいるのかもしれないと感じた。
車はどこかの地下駐車場へと入ったが、なぜかそこには厳つい警備ロボット警官が何体も配置していた。その様子に真由美は変な空気感を感じた。それも自分以外の何かの為に張られたような結界みたいなものを。
「お越しくださいありがとうございます安養寺真由美さま。上でお父様がお待ちです」
迎えに来たのは若く美人な接客係だった。さすがに接客係は人間だった。学校に出てまともに会う事が出来た人間だった。
「ありがとうございます。今日はうちの父の他にもお客様がおられるのですか?」
真由美はキョロキョロしながら車椅子に腰かけた。その車椅子を押しながら接客係の女はこういった。
「ええ、おられますとも。これからあなたがお会いになる方ですよ」
真由美は後ろを見上げながら彼女の表情を見ると、その顔は笑みを浮かべてはいるが少し隠せない緊張感みたいなものがあった。それにしても、私よりも先に来ている客ってことは、父の友人かもしれないとわかったが、心当たりがなかった。父は手広く商売をしているので、思いつきそうな者は大勢いたからだ。
エレベーターを降りて通されたのは、豪華な中華風の内装が施された個室だった。真ん中のテーブルには料理は置かれていなかったが、二人の男が座っていた。一人は真由美の父でもう一人はどこかで見た事がある高齢の男性で顔に大きな傷があった。もしは彼は・・・
「真由美! 遅かったじゃないか! 先に座って待っていたぞ。紹介しよう、彼は昔うちの会社で勤めていた男でな、今は政治家をしているのだ。こんなことになるのならもう少し援助しても良かったとなんて話をしていたところだ。なあ杠!」
そう言われ、真由美に握手を求めてきた男は、いつもニュース動画などで見ている男に間違いなかった。
「はじめまして真由美さん。あなたのお父様には若い頃からお世話になっております。でも、あなたとは初めてお会いしますね」
「は、はじめまして杠さん、いやなんとお呼びすればいいのですか?」
目の前の男はこの国の現職の杠信一郎首相だった!
明日は理工学部に見学と称して愛莉の手がかりを探しに行くつもりだった。出来ればそこで出かがりを見つけて、三日後にある杠首相の講演会までには何かの目途をつけたかった。もっとも、そんなふうに都合がいい事にならない事は分かってはいたが、何もしないでいられなかった。
そのとき、タブレットに緊急の連絡メールが送られてきた。それは杠首相の講演会の期日延期だった。なんなんだよそれって思ったが、延期なので来週同じ曜日に設定されると聞いて安心した。それは解決までの期日が伸びた気がしたからだ。でも、それだけ愛莉に再会できる日が遠のいだのかもしれないが。
それはともかく、セバスチャンは旧市街中心部にある中華街へと向かっていた。ここは自宅から遠く離れていたうえに、雰囲気が暗かった。
「本当にパパはこんなところに呼んだの?」
真由美は運転席にいるセバスチャンの背中をたたいた。
「はい、そうです! サプライズだそうですよ!」
セバスチャンはにっこりと振り返った。この車は自動運転システムなので運転席に座っていても運転に関与していないので、こんなことも出来るのだ。
「さ、サプライズ? さてはパパは自分が好きなものを食べたいからかしら?」
真由美は父が大の中国料理好きなのを思い出した。よく本場を食べに行くのだといって誘われるのだが、真由美にはどうしても脂が多い料理が苦手なので、大抵は断っていた。でも、今日はそれさえも出来ないように連れてこられた。それに、わざわざイブニングドレスに着替えさせたのだから他に真由美にとって招からざる客がいるのかもしれないと感じた。
車はどこかの地下駐車場へと入ったが、なぜかそこには厳つい警備ロボット警官が何体も配置していた。その様子に真由美は変な空気感を感じた。それも自分以外の何かの為に張られたような結界みたいなものを。
「お越しくださいありがとうございます安養寺真由美さま。上でお父様がお待ちです」
迎えに来たのは若く美人な接客係だった。さすがに接客係は人間だった。学校に出てまともに会う事が出来た人間だった。
「ありがとうございます。今日はうちの父の他にもお客様がおられるのですか?」
真由美はキョロキョロしながら車椅子に腰かけた。その車椅子を押しながら接客係の女はこういった。
「ええ、おられますとも。これからあなたがお会いになる方ですよ」
真由美は後ろを見上げながら彼女の表情を見ると、その顔は笑みを浮かべてはいるが少し隠せない緊張感みたいなものがあった。それにしても、私よりも先に来ている客ってことは、父の友人かもしれないとわかったが、心当たりがなかった。父は手広く商売をしているので、思いつきそうな者は大勢いたからだ。
エレベーターを降りて通されたのは、豪華な中華風の内装が施された個室だった。真ん中のテーブルには料理は置かれていなかったが、二人の男が座っていた。一人は真由美の父でもう一人はどこかで見た事がある高齢の男性で顔に大きな傷があった。もしは彼は・・・
「真由美! 遅かったじゃないか! 先に座って待っていたぞ。紹介しよう、彼は昔うちの会社で勤めていた男でな、今は政治家をしているのだ。こんなことになるのならもう少し援助しても良かったとなんて話をしていたところだ。なあ杠!」
そう言われ、真由美に握手を求めてきた男は、いつもニュース動画などで見ている男に間違いなかった。
「はじめまして真由美さん。あなたのお父様には若い頃からお世話になっております。でも、あなたとは初めてお会いしますね」
「は、はじめまして杠さん、いやなんとお呼びすればいいのですか?」
目の前の男はこの国の現職の杠信一郎首相だった!
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