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エリーは探偵として推理する

35・身体は監獄のなかに(4)

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 それから午後の四コマ目の授業が始まったので、淳司も真由美も出て行った。後に残されたのはエリーだけであった。彼女は指示された業務をただこなすだけのガイノイドに徹していたが、その間も電脳のなかで愛莉は自由にならぬ自分の身体にいらだっていた。もちろんそれは電脳内のノイズでしかなかった。

 愛莉が受けていた全身拘束刑のレベルは死刑囚に準じるほど厳しいものだった。人間としての外見も内面も全て奪われ、ただ労働するだけの日々・・・モノと一緒であった。いま自由になっているのはこうして自我を持ち自分の事を考えるだけだった。それさえも外部に発露できるのは仮想空間で淳司とコミュニケーションを取る時だけだった。あとは自分の殻に閉じ込められているのだ。見えない殻のなかに。

 「それにしても、真由美ちゃんを守らないといけないよね。本当なら思いとどまらせないといけないけど」

 真由美を止める方法は愛莉がガイノイド・エリーに内蔵されていることを告白するのが最善だった。しかし、それはシステム上許されないし、本来なら即廃棄処分にされかねない事態だ。淳司によって自爆システム(機密保持のために電脳内のパーソナル記憶の破棄)は解除されているが、まだ自由に第三者に自分の事を話せないなかった。残された選択肢は真由美についていく事だけであった。

 「それにしても、この時期に現職首相の講演会なんておかしいなあ? 理工学部に他に用があるのだろうかな?」

 愛莉は先ほど真由美から見せられた観覧許可証を思い出していた。生身の時から一瞬だけみた画像などを細部まで覚える事が出来たけど、電脳なら瞬時にできるのが驚きだった。

 その講演会の議題は「死刑制度廃止と全身拘束刑導入の是非」とあって、まるで法学者でも選びそうなものだった。数人の教授も登壇するようだが、メインは首相のゆずりは清市郎なのは確かであった。それは講演会告知のポスターから理解できた。エリーは書籍を組み立て式の収納ケースに黙然と入れていた。この時、愛莉はエリーにボディの制御権を奪おうとしていた。さっき、淳司にがいない時に限って自由に行動できるプログラムをダウンロードしてもらったので、試してみることにした。全身拘束刑を執行されてからというもの、自分の身体だというのに、自分の意志で動かせる事が出来ないことになれていた。それを打破しようとしていた。

 このとき、愛莉は自分で自分の制御プログラムを解除するなんて、本当に自分の存在ってなんだろうかと思った。一層の事、人為的に生み出されたプログラムが人間という自覚を持った、なんての方がマシだと思うほどだった。最初から機械ならよかったのに!
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