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エリーは探偵として推理する
29・愛莉の秘密(3)
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愛莉はここまで気分が落ち込んだ事を思い出していた。全身拘束刑でロボットに改造される時よりも、逮捕された時よりもひどかったことを。それは両親の死を知らされた時だ。
十歳のあの日、麗華民主共和国のサイバーフォースは全世界を混乱に陥れるために、ほぼ同時にインフラ関係や国防関係のシステムを誤作動させるサイバーテロを実行した。原子炉のメルトダウンや核ミサイルの誤射など、一つでも恐ろしいモノばかりだった。
愛莉が小学校で授業を受けていた時、いきなり校長と教頭が教室に入ってきて連れ出されてしまった。そして学校からワゴンに乗せられて知らないところに連れていかれた。そのとき、大人たちは何を考えているのか分からず不安であった。そしてついたのは国土運輸省の施設だった。そこで知らされたのは両親が乗っていた旅客機が、戦略自衛隊が保有していた地対空ミサイルがシステムをハッキングされてしまい、誤射によって駿河湾上空で撃墜されたという信じられないものだった。あまりにも異常な事態なので、こうやって家族を集めているとの事だった。そのとき、この国では各地で麗華によるサイバー攻撃で混乱が広がっており、不正確な情報の拡散を防ぐために、一種の緘口令を発動していた。
そのあとの愛莉の記憶は混乱していて、気が付いたときには孤児となり保護施設にいたことが、次の記憶だ。そのとき、感情が死んでいたことしか覚えていない。一層の事人形になって苦痛を感じたくないと考えていた事しか覚えていなかった。その間の事は、今でも分からない事ばかりだ。後で閲覧することが出来た、自分に関する処遇についての書類でしか流れが分からないし、自分の身に起きた事ではないと今も思っていた。あの日、両親がテロで死んだことを!
「それって、淳司。私の身体は完全には元に戻らないってことなの?」
愛莉はそういいながら自分の身体を確かめるかのように、襟首から自分の胸を触ろうとしていたが、突然ノイズが入りだした。どうも、激しい感情の起伏によって仮想現実上の信号のやり取りに支障が出てきたようだ。すると淳司は愛莉の身体を持ち上げ、お姫様抱っこのような姿勢にした。
「おいおい分かる事だけどな、仕方ないだろう! 全身拘束刑で全身を機械に融合してしまったからな。いま、こうやって俺が抱いている君の身体は、外見は人間に整形できても、内部構造は完全にもどせないんだ。君だって聞いたことあるだろ? 全身拘束刑でも最高の全身機械化された囚人の大半は刑期が終わっても、機械の身体のままだと。それは、機械のままの方がふさわしいと思うようになるし、人間の姿に戻りたくないのさ」
そういわれた愛莉は淳司の腕の中で泣き出した。いままで、こんな風に泣いたのはいつが最後だったのだろうか? もしかすると両親が亡くなった時? それとも、いつだったのかすらなにも思い出せなかった。
「じゃあ、いまこうして抱いてもらっている私の姿のようになっても、中身はロボットのままというわけなの? そんなの嫌よ! 人間なのよ! 私って! なんでなのよ! どうにかならないのよ! 教えてよ!」
愛莉の涙を淳司はハンカチで拭ってくれた。それにしても、チャラ男にしか見えないのにこの男の本当の正体はなんだろうかと不思議であった。
「仕方ないだろ! 電脳化された人間の脳細胞は元に戻せないし、人工筋肉のように改変された組織は下手な事をすると動けなくなるかもしれないぞ! 取りあえず、この事件が解決して君の冤罪が確定すれば、最高技術で君の美容整形はしてもらえるように働きかけてやるからさ。なんなら、世界的トップモデルなみの八頭身美人にもなれるぞ!」
それって、私に対する吊りなんだろうか? 愛莉はそんな風に冷めて考えていた。もともと美しくなりたいという願望など持っていなかったので、人間だった時でも化粧品の類を使う事がなかった。それなのにトップモデルなんて、それよりも愛莉が聞いてみたいことがあった。
「淳司、聞いていいかしら。私って女の身体になれるのかしらん? どうなの?」
その言葉はヤバくねえか? 淳司は一瞬たじろいでしまった。
十歳のあの日、麗華民主共和国のサイバーフォースは全世界を混乱に陥れるために、ほぼ同時にインフラ関係や国防関係のシステムを誤作動させるサイバーテロを実行した。原子炉のメルトダウンや核ミサイルの誤射など、一つでも恐ろしいモノばかりだった。
愛莉が小学校で授業を受けていた時、いきなり校長と教頭が教室に入ってきて連れ出されてしまった。そして学校からワゴンに乗せられて知らないところに連れていかれた。そのとき、大人たちは何を考えているのか分からず不安であった。そしてついたのは国土運輸省の施設だった。そこで知らされたのは両親が乗っていた旅客機が、戦略自衛隊が保有していた地対空ミサイルがシステムをハッキングされてしまい、誤射によって駿河湾上空で撃墜されたという信じられないものだった。あまりにも異常な事態なので、こうやって家族を集めているとの事だった。そのとき、この国では各地で麗華によるサイバー攻撃で混乱が広がっており、不正確な情報の拡散を防ぐために、一種の緘口令を発動していた。
そのあとの愛莉の記憶は混乱していて、気が付いたときには孤児となり保護施設にいたことが、次の記憶だ。そのとき、感情が死んでいたことしか覚えていない。一層の事人形になって苦痛を感じたくないと考えていた事しか覚えていなかった。その間の事は、今でも分からない事ばかりだ。後で閲覧することが出来た、自分に関する処遇についての書類でしか流れが分からないし、自分の身に起きた事ではないと今も思っていた。あの日、両親がテロで死んだことを!
「それって、淳司。私の身体は完全には元に戻らないってことなの?」
愛莉はそういいながら自分の身体を確かめるかのように、襟首から自分の胸を触ろうとしていたが、突然ノイズが入りだした。どうも、激しい感情の起伏によって仮想現実上の信号のやり取りに支障が出てきたようだ。すると淳司は愛莉の身体を持ち上げ、お姫様抱っこのような姿勢にした。
「おいおい分かる事だけどな、仕方ないだろう! 全身拘束刑で全身を機械に融合してしまったからな。いま、こうやって俺が抱いている君の身体は、外見は人間に整形できても、内部構造は完全にもどせないんだ。君だって聞いたことあるだろ? 全身拘束刑でも最高の全身機械化された囚人の大半は刑期が終わっても、機械の身体のままだと。それは、機械のままの方がふさわしいと思うようになるし、人間の姿に戻りたくないのさ」
そういわれた愛莉は淳司の腕の中で泣き出した。いままで、こんな風に泣いたのはいつが最後だったのだろうか? もしかすると両親が亡くなった時? それとも、いつだったのかすらなにも思い出せなかった。
「じゃあ、いまこうして抱いてもらっている私の姿のようになっても、中身はロボットのままというわけなの? そんなの嫌よ! 人間なのよ! 私って! なんでなのよ! どうにかならないのよ! 教えてよ!」
愛莉の涙を淳司はハンカチで拭ってくれた。それにしても、チャラ男にしか見えないのにこの男の本当の正体はなんだろうかと不思議であった。
「仕方ないだろ! 電脳化された人間の脳細胞は元に戻せないし、人工筋肉のように改変された組織は下手な事をすると動けなくなるかもしれないぞ! 取りあえず、この事件が解決して君の冤罪が確定すれば、最高技術で君の美容整形はしてもらえるように働きかけてやるからさ。なんなら、世界的トップモデルなみの八頭身美人にもなれるぞ!」
それって、私に対する吊りなんだろうか? 愛莉はそんな風に冷めて考えていた。もともと美しくなりたいという願望など持っていなかったので、人間だった時でも化粧品の類を使う事がなかった。それなのにトップモデルなんて、それよりも愛莉が聞いてみたいことがあった。
「淳司、聞いていいかしら。私って女の身体になれるのかしらん? どうなの?」
その言葉はヤバくねえか? 淳司は一瞬たじろいでしまった。
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