冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
15 / 198
ガイノイドは人類の奉仕の為に

14・再会

しおりを挟む
 眠れぬ夜を超えて愛莉の意識は疲れていなかったが、電脳になってしまった今、睡眠不足と判定されると自動的に補助電脳に切り替わってしまった。エリーの機体は本当にただのロボットになった。稼働している間ぼんやりと愛梨の意識はあった。これって、まるでエリーに憑りついている幽霊なのかしらと感じていた。

 朝の掃除が終わると丹下教授と淳司が出勤してきた。その顔に愛莉は喜んだが、エリーは二人に”おはようございます”というだけだった。本当はもっといろんなことをぶつけたかったというのに! まだ、エリーのボディを自由にすることが出来ないのがもどかしかった。

 「エリー! それじゃあ迎えに行ってくれ! アプリでコマンドは送ったからな、頼んだよ!」

 丹下教授に指示されたのは新入学してきた学生の中で介助が必要な者を迎えに行く事だ。そう、真由美のことだ。真由美の事を最も知っている自分が介助ガイノイドだなんて・・・少し情けないような気がした。

 真由美は10歳の時に交通事故で足が粉砕骨折などにより、膝から下を切断し車椅子生活になった。でも彼女は下半身の義体化を拒否し続けていた。しかも義足さえも! その理由を愛莉は両親への反発だと聞いていた。真由美の両親は医療用人工筋肉を製造する会社を経営していて、人間を機械のように改造するのに嫌悪感を覚えていたからだ。

 新入生のオリエンテーション会場にエリーが向かうと、新入生相手のサークルの勧誘などをする生徒がたむろしていた。その光景は去年見たものだった。この時、あんな奴に出会わなければよかったのにと、愛莉は思っていたが、エリーは指示通りに待ち合わせポイントに向っていた。途中、なんでガイノイドがいるのかという視線が気になったが、我慢するしかなかった。

 待ち合わせポイントにしていたモニュメントの前に車椅子の少女がいた。彼女が真由美のようだった。真由美とは去年のクリスマスパーティーで会ったきりだった。その直後に逮捕されたので会えなかった。彼女は死に物狂いで受験勉強したようだった。クリスマスの時点でも合格確率は三割にも満たなかったから・・・

 「はじめまして! 安養寺真由美さんですね! 丹下犯罪学研究所所属のエリーです!」

 エリーの声掛けに少しギョットした表情を真由美は見せた。

 「は、はじめまして! 聞いてた通りにロボットが来たのよね・・・でも、なんだか・・・」

 真由美は何故か変な反応を示していた。実は真由美はロボットが苦手で、出来れば避けた方が良いんではないかという女の子だった。高校でも介助用のロボットの利用をしないように自力でやろうとしていたぐらいだから。

 「どうされました? 真由美さん?」

 エリーはそう答えたが愛莉からすれば歯がゆかった。いつも「真由美ちゃん」「お姉ちゃん」なんて、姉妹のように呼び合っていたから。でも、なんだろうねこれって、と考えているとポツンとこんなことを言った。

 「なんかねえ・・・説明しにくいけどね、あなたの機体のシルエットって何故か、その・・・おかしいと思うかもしれないけど懐かしいわね。なんでかな?」

 その言葉に一つの仮説が浮かんだ。どうも、真由美の潜在意識は愛莉に会っていると直感で分かったんではないかと。実はエリーのボディは愛莉のオリジナルボディーに寸法が近いのだ。外骨格は愛莉を改造したうえで取りついているので、シルエットが近いのだ。胸部などは液体呼吸システムがあるので膨らみが大きくなっているけど、手足の長さや胴の長さといったものは、大きく変わっていない。

 真由美が愛莉のボディラインを知っているのは一緒にお風呂に入って、入浴介助をしていたからである。だから互いのハダカを見ているものだから、校内では百合姉妹なんて言われたけど・・・誤解されてもしかたないけど。

 「そうですか。では何をいたしましょうか? とりあえず一緒に行きましょうね」

 「お願いします」

 真由美はそう答えたが、心になにかがひっかかっているような表情だった。もし許されるのなら愛莉はここにいると言いたかったけど、全身拘束刑の受刑者が自分の本名を名乗ることは許されなかった。だから嬉しいけど少し悲しい再会であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

昼は学生・夜はガイノイド

ジャン・幸田
SF
 昼間は人間だけど夜になるとガイノイドに姿を変える。もう、そんな生活とはいったい?  女子校生のアヤカは学費と生活費を出してもらっている叔父夫婦の店でガイノイド”イブ”として接客していた。そんな彼女が気になっていた客は、機械娘フェチの担任教師の風岡だった!   彼女の想いの行方はいかなるものに?

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。  どちらかといえば、長編を構想していて最初の部分を掲載しています。もし評判がよかったり要望があれば、続編ないしリブート作品を書きたいなあ、と思います。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

機械娘として転移してしまった!

ジャン・幸田
SF
 わたしの名前、あれ忘れてしまった。覚えているのはワープ宇宙船に乗っていただけなのにワープの失敗で、身体がガイノイドになってしまったの!  それで、元の世界に戻りたいのに・・・地球に行く方法はないですか、そこのあなた! 聞いているのよ! 教えてちょうだい!

人形娘沙羅・いま遊園地勤務してます!

ジャン・幸田
ファンタジー
 派遣社員をしていた沙羅は契約打ち切りに合い失業してしまった。次の仕事までのつなぎのつもりで、友人の紹介でとある派遣会社にいったら、いきなり人形の”中の人”にされたしまった!  遊園地で働く事になったが、中の人なのでまったく自分の思うどおりに出来なくなった沙羅の驚異に満ちた遊園地勤務が始る!  その人形は生身の人間をコントロールして稼動する機能があり文字通り”中の人”として強制的に働かされてしまうことになった。 *小説家になろうで『代わりに着ぐるみバイトに行ったら人形娘の姿に閉じ込められた』として投降している作品のリテイクです。思いつきで書いていたので遊園地のエピソードを丁寧にやっていくつもりです。

処理中です...