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罠にはめられた少女!

10・悪夢と命令

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 全身拘束刑にされてガイノイドの電脳になっても夢を見るもんだと愛梨はおもった。本当は愛莉の自我プログラムがあるからかもしれないが、どうして電脳でも夢をみるのかについては知りたくもなかった。まだ人間だと思っているのだから。

 夢の中の愛莉はハダカであった。体つきはそんなに自信はなかったけど、女の子としては及第点だと思っていた。まあ欧州の古典的な題材にある裸婦像程度のものだとおもっていた。そんな身体に、顔のない影が多数群がって来た。そして、その影は愛莉の身体を引き裂いていった! でも、不思議な事に痛みなどなかった。引き裂かれる前に身体が固い岩か氷のようになっていたから。でもそれは人間性の喪失のように思えた。この時、山村愛莉という少女は生物的には死亡したのかもしれない。

 引き裂かれた身体に何かにかわのようなものと一緒に練られ誕生したのがエリーであった。愛莉の心のレプリカを持っているが、本人そのものではない。コピーでしかなかった。

 でも、そんなコピーでも貴重なものとされたものがあった。電脳だ。どうやら電脳を巡って争いが起ころうとしていた。目の前で数多くの黒く醜い影が戦っている。その戦いは凄惨なもので周囲を傷ついて破壊していた。エリーは心の中で叫んだ! 争わないで! 私の電脳そこの何が必要だというのよ! すると一つの影がはっきり見えてきた。

 「決まっているじゃないのよ愛莉ちゃん、君の電脳ハートに決まっているんじゃないか! 君は自分でも気が付いていないだろうけど、人類の運命を変えるかもしれない可能性を持っているのだよ。しかも、肉体を捨て神にも悪魔にもなれる姿になっていることに気付いていない。だから覚醒する前に君を独占したいと考えているのさ!」

 そう説明したのは淳司だった! 彼も私を裏切っていたの? エリーの電脳に埋もれかけている愛莉の心は泣き叫んだ! すると、もう一つの影が出てきた。

 「そうさ! 君の頭脳は優れているのさ! 電脳化すれば神にもなれる素質があるはずだ! だから全てを仕組んだのさ。愛莉をわが手の元に入れる事を! もう少し待って居るがよいぞ! 肉体という生物的な牢獄から解放したんだから、神になるがよいぞ!」

 その声は傲慢かつ奢っているように感じた。神ならざる人間が神になりかわってしまうなんて! それに一介の少女の人生を台無しにして電脳化して何をするというのだろうか!

 「なんてことを! 神になんかなりません! できればフツーの結婚をしてフツーの生活をして、年老いたら子や孫に見送ってもらう平凡な人生が良いです! あたしを元の愛莉にしてください!」

 愛莉は心から訴えた。すると淳司がこんなことを言った。

 「そういったところで、こいつらは無駄さ! 科学万能を狂信的に信じていやがるからな! そんな宗教的な偏執している連中に訴えても無駄さ! 愛莉ちゃん、戦う気はあるよな?」その言葉に愛莉は不思議な感じがした。戦うだなんて!

 「戦うって誰と? あたいを冤罪に陥れて全身拘束刑にした奴? それとも・・・?」

 愛莉の問いに淳司がある名前を叫んだところで、夢から覚めた。愛莉の心は再びエリーの電脳の中にロックされた。ロックしている間も愛梨の思考は続いていた。表に出すことは出来ないが。それにしても、あのチャラ男の淳司は一体何者だろうか? 仮想現実の中でイメージのやり取りを出来るのだから、多分彼も一部もしくは全て電脳化されているのは間違いなさそうだった。

 このとき、悪夢のような考えが浮かんだ。本当に私を全身拘束刑に陥れたのは淳司とその背後にいるというクライアントではないだろうか? もしそれが正しければ・・・もう人間に戻れない? そうなれば・・・その悪夢の回答だけは天才的少女の人生を電脳化して誕生したハードウエアをもってしても可能性は考慮できても回答を出すにはデータ不足であった。

  山川愛莉の肉体を全身拘束刑によって改造して誕生したアイリはエリーと入れ替えられた。二体のガイノイドはどこかに運ばれて行った。二体とも配属は決まっており、アイリの方は愛莉を全身拘束刑に陥れた者たちに近いところに配属されるのは確実だった。

 「本当にややこしいことをするわね。廃棄予定のパーツを組み立てて作った機体と入れ替えるなんて、どうかしているわよ。こんな事を出来るのは隠密でしょ?」

 山崎技師長は淳司に質問していたが、真実の答えなど期待していなかった。淳司の正体は分からないが、先ほど差し出された電子許可証は真正で、それを出せるのは政府のごく一部の、トップもしくはフィクサーなのは確実だった。

 「まあ、そういうことさ。そうそう、悪いが山崎技師長。来週から国連本部のある香港に出張するようにとの命令が届くはずさ。あんたの人間を機械に改造する技術は恐怖だからな。取りあえずこの国から脱出しろってことさ、俺のクライアントはな」

 淳司はそういいながら、端末から司法省行刑局のデーターベースにある二体のガイノイドのデータを交換していた。これでダミーと入れ替える事ができた。

 「こんなややこしい事をしなくても、あの愛梨とかという娘を秘密裡に出国させて、どこかの国で再改造すればいいだけじゃないのよ。私は司法長官の執行命令書に従っただけだからね」

 山崎技師長はそういうと、白衣を着替え始めた。目の前に男がいるなんてお構いなく。

 「その司法長官だけど彼も出張さ。国連特別刑事裁判所にさ。取りあえず帰ってこれないってことだから、その間に色々と工作する予定なのさ」

 淳司の発言はまるで政府を操っているかのようなものであった。それなら少女を秘密裡に消すことも可能なのに、何故こんなにややこしい事をするのか分からなかった。絶対これは陰謀があるのだと認識できた。

 「そうなんだ、でさっきの愛莉って娘の再改造は誰がするのよ? あそこまで機械と同じ身体にしてやったから、私は嫌だよ! 人間を機械にする技師は数多くいるけど、元の人間に戻せるなんて、たしか技術的に確立していないんじゃないのよ。まあ、外観だけはなんとかなるだろうけど、それでいいの?」

 着替えが終わった山崎技師長は淳司を見ていた。この男は外観はいい加減だが何をしているのか分からない恐ろしい男だと感じていた。場合によっては口封じされかねないと思うほどだった。

 「それでいいのさ。彼女にはやってもらう事はいっぱいあるからね。本当なら”人間の少女”だったときに会えたらよかったけどな。もうちょっと早く彼女の正体を把握していたら、もう少しマシな作戦が取れたというのに!」

 そういうと、淳司は山崎技師長の顎に手をかけた。彼女は淳司の瞳の奥にある何かの機密の一端を目の当たりにした。

 「そういうことだよ、山崎技師長! あんたは今日はアイリとエリーの二体のガイノイドを生み出して調整した! そう認識したまえ。それと、俺はただのメッセンジャーボーイさ。そういうことさ」

 すると、山崎技師長の記憶は改竄された。彼女もまた肉体はそのままでも、人間を機械にするために電脳化されていたのだ。淳司にとってその場にる電脳の短期記憶を書き換えるのは簡単なことだった。
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