冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
7 / 198
罠にはめられた少女!

06・仮想空間

しおりを挟む
 山村愛莉は天涯孤独だった。両親を航空機テロで失い、他にまともに頼れる親族もいなかったので、10歳の時から自活しなければならなかった。幸い、彼女の学力が認められ全寮制の学校に入れたので、大学まで返還無用の奨学金と公的支援で生活することができた。しかし、国家機密漏洩に加担したとする冤罪によって全てを失い、今は機械の一部にされる全身拘束刑の受刑者になった。

 愛莉が目覚めたのは一種の仮想現実だった。その仮想現実は全身拘束刑に処せられた囚人の統括プログラミングのひとつで、執行前に聞かされた話によると、定期的に行われる司法省矯正局による面談プログラムだと分かった。

 そこでは機械の中に囚われている受刑者本来の精神状態がヒヤリングできるという事であったが、どうやら起動させたのは、あのチャラ男のようだった。それにしても、あの男は一体何者なんだろうか? 愛莉は不思議であった。


 仮想現実の中の世界は、どこかの風光明媚な観光地のようであった。背後になだらかな山々が続いていて、丘の向こうには海が広がり、そこに大小の島々が浮かんでいた。そして山々には様々な果樹が植えられていて、風車も回っていた、また青い空に覆われていて、どことなく鳥のさえずりが聞こえていた。ただ人の気配が全くないので、まるで映画のセットのようにも思えた。

 「うーん、なんでこんなところに・・・あれ?」

 愛莉は自分の姿に驚いていた。たしか仮想現実の中では受刑者が自由に意志の表明が出来るように、人間の姿が投影されるので、たいていは刑の執行を受ける前の姿のはずだった。なぜかポケットにあったコンパクトを見ると、肩までの黒い髪で少し編んでいて、地味なリボンの髪飾りをして化粧気のない顔だった。そしてオーソドックスな上着とワンピースに飾りリボン、チェック柄のスカート。これって・・・高校の制服を着ていた・・・

 「なんなのよ、これ! これじゃあ・・・若すぎるわよ! なんでこうなるのよ! あたしゃあ、このままの時代の方がマシだったと思っていたけど、なんなんだよ、これって?」

 愛莉は動揺していると後ろから気配が違づいてきた。この世界で登場できる人物は、司法省の面接官だけのはずだった。しかし違っていた。

 「どうだい? 気に入ってくれたかな? 君がデートしてみたかったと言ったから、洒落てみたんだけど。ここじゃないと、いろいろと込み入った情報を言えないからな。あの柴田っておばさんも信用できねえからな」

 目の前に現れたのは淳司だった。その姿はさっきまでと一緒だったが・・・この男は本当に何者なんだろう?

 「ねえ! これってあなたの趣味なの? あたしをこんな姿にするなんて! それになんで女子高生なのよ! 大学生だったのよあたしはね! 若返らせるなんて少しロリコン趣味なのですか? それなりに学校では可愛いと言われたことあるけど・・・ちょっとね・・・」

 愛莉はそう言って淳司にかけよった。すると肩を抱いてきた。それはさっき外骨格の上からやられたものとは違う新鮮なものだった。そしてキスをした。ファーストキスが仮想現実の中なんて、切ないよ! と思った。

 「君って、やっぱ資料通り可愛かったんだね! こんなに女の子らしいというのに、あんな武骨なガイノイドの内臓になっているのがもったいないなあ! まあ、こうやっているのも随分と法令違反しているが、そんなのはクソくらえだ・・・あ、ちょっと汚かったな! お詫びにと、おりゃ!」

 そういうと、目の前にパラソルと下のテーブルにお茶菓子が出現した。この世界では魔法のような光景であるが、すべては電脳内の電気パルスをそう感じているだけのことだと分かった。そんなカリソメの世界で淳司はそこにエスコートしてくれた。淳司は一体全体本当に何者なのか分からなくなってきた。見た目はチャラ男そのものなのに。

 腰かけると仮想だと分かっていても愛梨は手を伸ばしていた、そこに好物だった紅茶とチーズケーキがあったから。全身拘束刑の受刑者が絶対食べれないものであったので、思わず口にしていた。


 「まあまあ、デートの気分で! といいたいところだが、本題に入ることにしよう。君を全身拘束刑にした黒幕の目星だが、俺のクライアントは付いているというのだ。そいつは、多分君を消しにかかるはずだ! 電脳化された君の記憶の中に不都合なものがあってな、たぶんリースに出たら破壊工作によって廃棄処分にされるはずだ。だから、ダミーのガイノイドを製造中だ」

 それには愛莉は持っていたティースプーンを落としてしまった。仮想現実でもこんなことになるもんだと思った。

 「そおなの? ロボットのままで死ぬなんて嫌よ! なんでそんなことになるのよ! 誰よ、その黒幕って? 人に濡れ衣を着せただけでは物足りないわけなの!」

 「まあまあ、落ち着いてよ愛莉ちゃん。そいつの候補は二人いるんだ。そいつは君の身近にいた人物だ。本当なら同時に捕まえる事ができればいいが、難しいんだよ尻尾を捕まえるのはね。だから、やってもらいたいんだが。さっき三つの選択肢があるといったが、それから先に言おう」

 そういって淳司はコーヒーを飲んだ。その仕草はなんか愛おしく思えた。

 「ひとつは、刑期を勤めあげた振りをする。ある時点で準備が出来たらダミーといれ変わるわけさ。どこかの他人の人生を過ごす事になるけどね。また、あいつらがダミーを破壊した時点でも君を密かに元に戻してあげるっていうのもいいな。でも、それでは愛莉ちゃんは全身拘束刑の囚人として死んだことになる。それだと、一生元の生活に戻れない。
 ふたつめは再審請求をすること。でも、これも証拠集めは難しいし、裁判所にもあいつらのシンパはいるから、難しいだろうな。一応クライアントも可能性を探ったが、実現したとしても刑期が終わっていてもおかしくないそうだ。
 そしてみっつめ、それをやってもらいたいが、あいつらの尻尾を掴むためにガイノイドとして潜入してもらいたい。それは危険な事だけど、それなら堂々と元の生活に戻れるぞ! いいだろう?」

 愛莉はほおばりながら考えていた。どうせ自我の持たないガイノイドとして刑期を勤めるぐらいなら、自分をこんな機械に融合させた連中をギャフンと言わせた方が良いに決まっているじゃないよねと。淳司が提案した最後の方を選ぶことにした。きっと彼は三つ目をさせるつもりだったんだと分かっていたけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

機械娘として転移してしまった!

ジャン・幸田
SF
 わたしの名前、あれ忘れてしまった。覚えているのはワープ宇宙船に乗っていただけなのにワープの失敗で、身体がガイノイドになってしまったの!  それで、元の世界に戻りたいのに・・・地球に行く方法はないですか、そこのあなた! 聞いているのよ! 教えてちょうだい!

昼は学生・夜はガイノイド

ジャン・幸田
SF
 昼間は人間だけど夜になるとガイノイドに姿を変える。もう、そんな生活とはいったい?  女子校生のアヤカは学費と生活費を出してもらっている叔父夫婦の店でガイノイド”イブ”として接客していた。そんな彼女が気になっていた客は、機械娘フェチの担任教師の風岡だった!   彼女の想いの行方はいかなるものに?

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。  どちらかといえば、長編を構想していて最初の部分を掲載しています。もし評判がよかったり要望があれば、続編ないしリブート作品を書きたいなあ、と思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

バイトなのにガイノイドとして稼働しなくてはならなくなりました!

ジャン・幸田
SF
 バイトの面接に行ったその日からシフト?  失業して路頭に迷っていた少女はラッキーと思ったのも束の間、その日から人を捨てないといけなくなった?  機械服と呼ばれる衣装を着せられた少女のモノ扱いされる日々が始まった!

処理中です...