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全身拘束刑の女

02・改造

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 愛莉の訴えなどお構いなく柴田技師長による全身拘束刑の執行がすすめられていた。執行が終われば人間とし扱われなくなり、国家が所有するロボットの一体にすぎなくなる。そのため執行と同時に愛莉の住民登録の抹消が刑事局によって行われ、法的には愛莉は存在しないことにされた。

 一連の作業の中で、犯罪者として処罰されるデモンストレーション、すなわちロボット化が愛莉に施された。抵抗できないように意識を保ったまま動けなくなる薬物を投与された。意識を保ったままにされるのは、自分が犯した罪を自覚させ、また自分が全身拘束刑に処せられているのを十二分に認識させるためであった。それには愛莉は涙を流すほかなかったが、口には猿轡さるぐつわのような器具をセットされ、両手両足を拘束具で固定された。

 それははりつけにされたような姿であった。この時、意識を失わなかったのが後々まで後悔してしまう目に遭う事になった。その様子はまるで食肉に加工される家畜にでもなった気に愛莉はなった。さきほど法的に人権を保障すべき人間でなくなったので、動物扱いであった。

 「説明だけはしてあげるわね。あなたの身体をこれから改造するわね。機械と融合させてあげるわよ。ちょっとおしいわね。あなたのように綺麗なお肌、無くなってしまうのね。でもねガイノイドになったらそんなことは考えられなくなるわよ。あなたの記憶はデータ化されて残るけど、自由な自我など刑期中は無くなるからね。素体の由来ということしか意味はなくなるしね」

 そういって柴田技師長は愛莉の顔から胸を触っていた。その姿はこれから処刑される娘のように座らされていた。これから人間としての身体を失うから、処刑に等しかった。

 愛莉は両手両足を固定された後で。着ていた服を全て脱がされた。このように出来るように裁判所から護送される時に安物の囚人服に着替えさせられた理由がわかった。人間でなくなることを自覚させるために、こんなひどい仕打ちをするのだと。愛莉は抵抗できないまま、ハダカにされた。この措置室にいるのが女性しかいないのがせめてもの救いだった。人間としての服を奪われた愛莉は、機械の素体でしかなかった。

 その時、愛莉は思い知らされた。全身拘束刑は一部の凶悪犯しか執行されないと、司法省は宣伝していたし、扱いは酷くないともいっていたのに、実際はここまで屈辱的だった。これって、モノとして扱われるのに早く順応せよというものらしかった。モノはモノらしく扱われるから。

 ハダカにされた愛莉は全身にクリームのようなモノを塗られたあと驚いた! 髪の毛も含め全身の体毛が抜けてしまったのだ! 大学生になって少し脱色したりパーマをかけた髪の毛もなくなってしまった! もう、人間ではなく自分はマネキンのような姿になったとしか想像できなかった。

 もし、この光景を見たら誰もが非人道的な刑罰だと思う事だろう。一方で、ここまで酷い刑罰を受けるのだから、それ相応の犯罪者に違いない、因果応報だといって突き放されるかもしれなかった。かつての死刑囚は人を殺めたのだからそれ相応の死の罰を受けると主張されたように、人間で無くなるような刑罰を受けるのは極悪人だと。実際、柴田技師長以下この措置室にいたスタッフ全員がそれなりの凶悪な犯罪者だとおもっていた。でも愛莉は国家の機密を漏らすことを首謀していなかった、誰にも認められなかったが! 絶対誰かに嵌められたんだと確信していた。しかし、もう後戻りすることは出来なかった。

 次にマネキンのようになった愛莉の全身を特殊なインナースーツが装着されていった。それは包帯のような形状をしていて、柴田技師長が指示しているガイノイド、これも元人間の囚人かもしれないが、そいつらによってミイラに包帯を巻くようにして包まれてしまった。

 まかれた包帯は熱を発しながら愛莉の皮膚に融合していった。そのとき、全身が熱くて泣く叫びたかったが。もう感情を表現するように身体が反応することは無くなった。身体は愛莉のものではなくなっていた。同級生に暗号を解除するのを頼まれただけなのに、ここまでの仕打ちをうけるなんて、理不尽だと憤りたかったが全ては手遅れだった。それなりに可愛らし少女だった愛莉はこの世の中からいなくなってしまったのだ。いまいるのは愛莉の抜け殻であった。

 この時、愛梨の身体は目鼻口そして下腹部以外がゴムのような素材に覆われ、ゴム人形のようになった。それはもう人間ではなくなっていた。人間の形をしたなにかであった。猛烈な熱気に蒸されるような感覚とともに、全身が溶けてしまう恐怖を感じていた。

 愛莉は理不尽な扱いを受けたあるアメリカ人の囚人の話を思い出した。その人物はサミュエル・マッド医師といい、19世紀のアメリカ合衆国大統領だったリンカーンを暗殺した実行犯ジョン・ウィルクス・ブース一味を宿泊させ、治療を行ったとして、後に軍事裁判で終身刑を宣告されたという。逃亡を手助けしたとして暗殺者の一味とされたわけだが、それはまるで自分だと愛梨は思った。

 愛莉が逮捕されたのは、国家機密漏えいに加担し深刻な国家的危機を招いたというものだったが、裁判中は自分がやったとされたことなのに、ほとんどすべてが国家機密だとして法廷で開示されず、まともな審理が行われないまま有罪にされてしまった。それも全身拘束刑という死刑にも等しい刑に! あんまりにも厳しい刑なので泣いてしまった!

 「それでは、これから山村愛莉は法的に除籍されます。これから内臓処理を行い、生命維持システムの構築と外骨格の装着措置を行います。では、いいですね?」

 柴田技師長の愛想もない声が措置室に響いていた。いいですね? といわれても反論できないじゃないのよ! そう反論したかったが、既に口蓋は大きく開けられ、体内に向けて改造マシーンが挿入されていたからだ。それと同時にインナースーツが本来の愛莉の皮膚組織と完全に融合したため、愛莉の身体はロボットを構成する材料でしかなかった。

 改造マシーンから放出されたナノマシーンと改造に必要な物質によって、少女の身体物質はロボットの骨格と内部動力、そして制御機構として変換されていった。インナースーツに覆われ見えなかったが愛莉の肉体は再構成されていった。筋肉組織は人工筋肉と同様な素材に、内臓は人工筋肉に稼働物質を供給するもに変えられていった。

 また頭蓋骨に直接開けられた穴を通じて挿入された管からは、愛莉の脳細胞を電子素子に置き換える作業が行われた。それはいわゆる電脳化であった。電脳化された人間は、電子回路と同様になるので、簡単に書き換えができるような状態にされた! もはや愛莉にプライバシーなど存在しなかった!

 人間からロボットに変換させられていく作業の中で、このような酷い目に遭うきっかけを愛莉は思い出そうとしていた。すると、あるライバルの顔を思い出した。あいつはたしか、同じ大学の研究班に在籍していた・・・名前が出なくなっているわ! 自分の記憶も改変されているのかしら? そんな恐怖に襲われた!

 「もう少しで、人間をすて機械に生まれ変わるわよ! 全身拘束刑といっても本当は私が受けたいぐらいだわ♡ だって素敵と思わない? メンテナンスさえ行えばほぼ半永久的にグッドなボディでいられるのよ! 歳をとってお肌のお手入れ面倒になったなんて言わなくてもいいのよ! 羨ましいわね! 」

 柴田技師長の嫌味なささやきを聞いて愛梨は。お前が自分でやれ! そういいたかった。刑罰として受けているというのに! 好き好んで機械に改造してもらう嗜好の人もいるようだけど、自分は絶対なりたくないのに、ロボットなんかに! それなのに・・・

 愛莉は身体も意識も溶けてしまう感覚に襲われた。どうやら人間ではなくなったようだ。機械と生体が融合した一種の機械生命体という名の道具にされてしまったようだ。もう山村愛莉という人間ではなくなった。今はヤマムラ・アイリという国家が所有する多目的ガイノイドの一体としてリボーンしたようだ・・・


 意識も遠くなっていった。意識が薄くなっている間分かったのは、身体がロボットにしか見えなくなるように、金属的な質感を持つ外骨格に覆われていく事、内臓がロボットの部品に改造されること、そして大脳皮質がナノマシーンによって電脳化され、機械生命体的な動作しか出来ないようにされていくことだった。もはや、道具でしかない自分の存在を嘆きながら、愛莉としての自我は消失した・・・ 愛莉の身体は機械に変えられてしまった。少し前までは血肉が通っていたが、疑似生体組織で構成されたロボットにされてしまった。

 愛莉だった身体はガイノイドの内部構造に変わっていた。身体に継ぎ目が現れ、内部構造が見えてきた。その内部構造は人体由来の有機素材で人造筋肉のような質感になっており、血液が流れているように見えなかった。その内部に様々な器具が挿入されたあと、次に開けられたのが頭頂部だった。頭頂部から見えたのは委縮した大脳皮質のようなモノが見えた。大脳皮質はナノマシーンによって電子素体に置き換わっており電脳化されていた。そして内部構造のチェックが終了した後は最後の仕上げだった。完全に人間の姿を無くすことだ。

 ガイノイドの素体の表面にガイノイドにしか見えないようにする外骨格が接合されて行った。まず関節部が取り付けられ、その後に表面を覆う複合材コーティングされた装甲のようなものがはめ込まれて行った。この時、愛莉だった素体に取り付けられたのは戦闘用装甲女性兵士用の外骨格だった。これが選ばれたのはメーカーに在庫があったからだ。愛莉のオリジナルサイズに合うようなもので、格安で提供されたものだった。ちなみにメーカーは「安養寺ハイテクノロジー」だったという。

 最初はそれなりに可愛らしい少女だった愛莉は武骨なロボット然としたガイノイドの内臓にされてしまった。もう、彼女を人間だと認識するのは無理な姿だった。分厚い手足の装甲、腰と腹部は女性らしい曲線で構成されているが胸は器具が内臓されているような大きなドーム型。頭部はヴァイザーを被ったようなヘルメットであった。ウエストもくびれていたが、背中と腰には様々な機器があって、女性型ロボットと同じになった。

 「これで措置終了です。山村愛莉はこの世から抹消されました。かわりにガイノイドのアイリが誕生しました。現在はスリープ状態にしています、最終チェックは司法省行刑局にお任せします」

 愛梨からガイノイド・アイリに生まれ変わった瞬間であった。


 柴田技師長の目の前には憐れな全身拘束刑にされた少女の姿のかわりに、ガイノイドと呼ばれる女性型ロボットが横たわっていた。その中には山村愛莉の肉体を切り刻んで材料にしたものが詰まっていた。少女の皮膚は外骨格と癒着し、生体脳は電子素子を注入され電脳化されていた。また筋肉組織も内臓組織も改造されてしまったが、大きな改造を受けなかったところもあった。骨格と生殖器だ。骨格は造血細胞を温存するために必要だったし、生殖器もホルモンの分泌が必要だったし、彼女は天才的な頭脳を持っていたので、場合によっては優れた人類を生み出す研究に必要かもしれないと存置された。

 動かなくなった愛莉、いやアイリはそのまま収納ボックスに入れられ、司法省の別の機関へと運ばれた。そのとき、ちょっとした手違いでアイリを欲しがっていた者たちの息がかかっていない、担当部署に運び込まれたことから別の物語が始まった。

 その部署で電脳化された愛莉をアイリとして意識が書き換えられている間、刑事局の担当官がアイリの電脳内の記録をチェックして恐ろしい事を確認した。もしかすると冤罪ではなかったのではないか、この事件は! そこからアイリの軌跡は思わぬ方向へと歩みだすことになった。アイリが人間の姿を取り戻す戦いの日々が!
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