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婚約者に要らないとおもわれ追い出された!(サンドラ目線)

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 第一王子のアルベルトは婚約破棄を望んでいる事を洞察に優れたサンドラは知っていた。だから、そうなるのも仕方ないと思っていたが、あの日の朝から異常を察知していた。園遊会に一人で会場入りしろという通知を受けていたからだ。それは婚約者待遇はしない剥奪するというものだとわかった。行けば断罪されるのは間違いなかった。

 このような形で婚約破棄される貴族の令嬢は最大の屈辱といえた。通常なら国王の裁可のうえで行われるものであり、合理的な理由があるはずだ。もっとも女性にとって屈辱的な理由、たとえば医学的に跡継ぎを産めそうもないという事もありえるが。

 そんなことを思いながらサンドラは汚れた農婦姿で荷台にいた。その日、王都は近衛兵が動員されていた。途中で検問があったが見過ごされた。まさか汚い農婦たちの中に伯爵令嬢がいると想像すらしていなかったかもしれなかった。そうして王都を脱出したサンドラはホラス河に停泊していた機帆船に案内された。それはクオモ公爵家が持つ最新式のものであった。

 「お嬢様、直ちに出港します。このまま海に出ます」

 王都のクオモ屋敷の支配人でもあるセバスチャンに案内された。そこでメイドたちに身体を洗ってもらい伯爵令嬢に相応しい衣装に着替えたが、それには誰かの婚約者であることの証である装飾はなくなっていた。サンドラは口に出したことはなかったが、あのアルベルトの婚約者であるのが嫌だったので気が楽になった。

 「ここには王室の者はおりませんよね? 気兼ねなくしゃべってもいいかしら?」

 サンドラは安堵の表情を見せた。いままで将来の王妃として相応しくない行動をしないかを監視する侍女がいたが、それらが同行していないことに気付いていた。

 「そうです、あの者たちはウソの指示を与えて王宮に向かいました。ここには我がクモオ家配下のものしか残っておりません。それよりも危なかったですよ、ネルディ子爵に唆された近衛部隊の動きに間に合わないところでした。あの方の進言がなければ、今頃命はなかったです」

 セバスチャンも安堵の表情を浮かべていた。早朝、ネルディ子爵とアルベルト第一王子がクーデターを決行するという情報がもたらされたので、王都のクオモ屋敷は脱出準備を密かに進めた。王都の屋敷から貴重品だけを王都内の馬車屋に運ばせるとともに、クオモ家と懇意にしているクーデターによる粛清対象になりうる貴族や官吏を、特に理由を言うことなくクオモ公爵領に招待した。クーデター部隊の犠牲にならないように。

 「あの方ですか・・・一度しかお会いしたことないのにどうして私の事を助けるのかしら?」

 サンドラはそういったが、一番の理由は明らかだといえた。自分ではなくこの国を支配するために加担しているのだと。
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