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新婚生活だというのに!

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 要らない婚約者と別れて本当の愛の相手と結婚すれば楽しく幸せな人生になるとアルベルトはしたことといえば、両親と婚約者を追い出して、ついでに邪魔になりそうな連中を取り除くことだった。問題といえば、その方法としてクーデターを起こしたことだ。愛するがゆえにクーデターを起こして結婚した。そう言えば聞こえはいいかもしれないが、それは国を傾けることになるとは必然であったといえる。

 王宮内の建築物に被害は甚大で、アルベルトが思い描いていた改築ではすまないほどであった。至る所でレンガの壁は崩壊し、再建築した方が早そうなほどであった。しかし・・・この国には富みもなければ人材もなかった。クーデターで流出してしまったためだ。

 「陛下、申し上げにくいのですが寝所は完全に崩壊しています。とりあえずクオモの家屋に移転しましょう」

 ネルディからの報告はアルベルトをがっかりさせた。折角、カルメンを喜ばせるために内装工事を完成させたばかりというのに新婚生活の場が無くなってしまったからだ。瓦礫の山と化した王宮から旧クオモ邸を仮王宮とする勅令を発布した。

 クオモ邸はサンドラの実家で、王都のすぐ東にあった。クオモ公爵家をお取りつぶしにして接収したが、建築資材を短期間に調達するため、多くの建物は解体される最中だった。そのため仮王宮の主要な機能は離れの腐朽した建物を使うしかなかった。そこは王宮の国王の間よりも悲惨だった。

 あわただしくアルベルトが入ってみると、床は軋み天井は撓み、そしてかび臭い空気が淀んでいた。まるでクオモ歴代の当主の恨みが漂っているように思えてしまうほどであった。そういえば当主の、サンドラの父はどこに隠れているのだろうか?

 考えてみれば園遊会があったあの日サンドラの両親は園遊会に参加していなかったかもしれなかった。なぜなら園遊会で姿を見なかったからだ。サンドラは本当に一人で歩いてきたから。また数多くいるはずの使用人もほぼすべて姿を消していた。

 「おい、お前! クオモはどこに行ったのか知らねえのか?」

 アルベルトは仮王宮に指定したボロな建物にいた男を尋問した。すると男はこういった。

 「そっちこそなんだよ! 家がなくて潜伏していただけなんだ! この家の住民は先週の夕方に大挙してどこかにいってしまった! おかげで家が手に入ったというのに、お前さんが来たおかげで台無しだ!」

 どうもホームレスの男だったようだ。それには鈍いアルベルトも唖然としてしまった。ホームレスから住まいを取り上げて住もうとしていることに! しかたないので建物内にお互い邪魔をしないという条件で出ていかなくてもよいとした。

 しばらくしてカルメンが帰ってきたが、その姿にアルベルトは唖然とした。馬車いっぱいに買い物をしてきたのだ。すべて自分の趣味で買った衣服や宝飾品だった。その支払いは全て・・・国王である自分持ちだった。


 「カルメン、これってすごい買い物だけど?」

 「そうですわ。だって陛下は今朝なんでも買ってきていいっておっしゃてくれたじゃないですか? 王宮が壊れたので一部取りやめましたけど、いいですよね。お約束ですから」


 アルベルトは自分が言ったことを思い出した。たしかに何でも買ってやるといったのを。でも、それは想像を超えた量だった。しかも今は・・・住まいである王宮が無くなってしまった。そんなことを言ったのは失敗だったと。いくら経済観念が杜撰なアルベルトでもまずいとわかるカルメンの買い物であった。

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