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新婚生活だというのに!

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 アルベルトの関心はカルメンだけに集中していた。自分が国王という自覚など全くなかった。要らない婚約者を追い出すために国王になった後のことなど全く考えていなかった。恐ろしいほど未来を想像できないアルベルトにとって、カルメンとの結婚はゴールであったといえる。そのあと何をすればいいかなんて思っていなかった。

 ユリウス二世が思っていたのはアルベルトがあまりにも凡庸すぎるので、優秀なサンドラを妃にすることで国王に相応しい男になれるはずだということだ。だから、サンドラと婚約破棄するといったアルベルトの浅はかさには激怒したという。

 「親父とお袋は悪魔島についたか?」

 国王執務室の机に脚を投げ出してアルベルトはだらしない姿勢で座っていた。国政に全く興味のないので、ここにいる時間は一番暇だった。国王というものは何をすべきかという帝王学を学んでいても殆ど身についていなかった。これはユリウス二世がまだ40になったばかりで若く、まだ数十年の猶予があると高をくくっていた面もあった。一説にはサンドラと一緒になることで良き君主に相応しい男になれるはずだと考えていたようだ。しかし、アルベルトは未熟なままで即位してしまった。そんな君主はネルディにとって都合よかった。

 「まだわかりません、あそこは船で三か月かかるところですから、送りに行った船が戻るまでわかりません。まあ半年後でしょうね」

 ネルディはそういったが、悪魔島は絶海の孤島でそこに行くまで海流が激しい場所や天候が荒れる場所もあるので無事に着かない可能性もあった。遭難した方がよかったし途中で亡くなってもよかった。あえて殺さなかったのは可能な限り汚名を自分たちが負わないためだ。

 「そうか、それよりもカルメンが王宮の改修をねだっているんだが、予算は大丈夫か?」

 アルベルトの関心はカルメンとの新婚生活だった。アルベルトが即位したヴァルディアン王国はかつては大陸でも有力な国家であったが、ここ数世紀は周辺の新興勢力に圧迫され、現在は有力諸国の緩衝国として存続している状態だった。緩衝国は有力諸国が直接隣接しないためのみしか存在意義がないといっても過言ではなかった。そんな王国だからジリ貧でもう数十年も満足な王宮の改修が行われていなかった。ユリウス二世は国民にお金をかけるべきだとして、福祉政策に予算が使われていたためだ。

 「それは大丈夫です。貧窮者救済基金を大幅に削減して、人頭税の大幅増税を行います。また我々に反発する貴族どもの財産を没収しています。それとクオモ公爵家の王都の屋敷を解体して資材を調達しています」

 そういっているネルディであるが気がかりな事があった。クオモ家所縁の者をほとんど拘束できなかったことだ。死んだと思われるサンドラや帰国しないレオのほか、二人の両親や一族郎党も姿を消してしまったのだ。おそらくはクオモ公爵領へ逃亡したようであるが、途中で張り巡らせていた包囲網を突破した形跡がなく、どこにいるのか皆目見当がつかない状態であった。クオモ家は王国内でも有数の貴族で王家とも血縁関係が深い名家であった。その勢力をそぐのは伯爵位を剥奪しただけでは不十分だった。

 「そうか、それはよかった」

 アルベルトはそういって満足したが、クオモ家をただの下僕としかみていない彼には、もう脅威だと感じていないようだった。まったく洞察力がない男であった。そんな男だからネルディは操れるわけだ。

 「それでは、うちのカルメンはどうしているのですか?」

 そういったとき、王宮中に大音響が響いた。王宮にある弾薬庫が爆発した瞬間、執務室は激しい振動に襲われ、その場にいた者はなぎ倒された! これが国王を簒奪したアルベルトの没落の始まりであった。
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