上 下
5 / 43
結婚式!

05

しおりを挟む
 要らないと思っていたサンドラを追い出すために全権を掌握したアルベルトは次々と勅令を発布した。国王就任の宣下に始まり、サンドラの王太子婚約者の身分剥奪、ネルディ家の家格を子爵から公爵への昇格、カルメンの王妃と認定、そしてカルメンに対する不敬罪を理由にサンドラの実家クオモ家の公爵位の剥奪などであった。そのほかは新たに宰相にカルメンの父のヴィットリオ・ネルディへの権限移譲などだ。

 アルベルトはカルメンと一緒になるためにクーデターを起こしたわけだが、それが達成できれば政治に興味はなかった。一連の勅令発布後に最初に取り掛かったのは即位式と結婚式であった。即位式を簡略化しても結婚式を盛大に執り行いと考えていた。しかも一週間で行うとしていた。それには新たに就任した宮内尚書も慌てふためくしかなかった。

 元婚約者のサンドラとは一切男女の関係はなかった。王国のしきたりで王族と婚約者に内定した娘はいかなる相手に対して貞節を守り禁欲しなければならないからだ。それは婚約相手の男も一緒で、アルベルトはサンドラの手を触ったことすらなかった。もっとも、完璧すぎる彼女を抱き気は起きなかった。正式に結婚するまで一切お断りだという姿勢に好感をもてなかったためだ。

 一方のカルメンとは早い時期から逢瀬を重ね身も心も許す仲になっていた。それもこれも男性側は貞節を守る義務がなかったし、アルベルトは自分の事が一番大事というワガママ男だった。そのため、カルメンとはあんなことやこんなことを平気にしてきたわけだ。

 国王に即位したアルベルトが即座にしたのがカルメンを妻にすることであったが、そんなに急いだのも理由があった。カルメンが妊娠していたのだ。もちろん相手はアルベルトだった。もしカルメンと結婚しなければ非嫡出子となり愛の結晶が王位継承権を得られない。そう思ったからカルメンの父に協力してもらい、父親に反感を持つ勢力を結集してもらった。そのお礼に国政を任してもいいとまで思っていた。

 「宰相、そなたにクオモ公爵領を与える。まあ接収に際し反逆する者がいるだろうから、その場合は近衛部隊を投入しても構わん」

 アルベルトは「義父」のネルディ「伯爵」に指示していた。娘との結婚を認めてもらい予定よりもはるかに早く国王になれたことの恩に応えようとしていた。

 「陛下、サンドラですが乗っていた馬車がホラス河にかかる橋から転落して行方不明です。地元の師団に捜索させていますが、まだ発見できません」

 サンドラは最期を迎えた! アルベルトはうれしかった。要らない婚約者が消えたことに。数日前の豪雨で増水していたホラス河に落ちれば、溺死したのは間違いないはずだった。

 「そうか、刺客を差し向けていたのに残念だな。まあ公式には国事犯になったので逃亡したが事故死したとでもしとけ。そういえばサンドラには兄がいたな、まだ帰国していないか?」

 国王になったアルベルトが指摘したサンドラの兄のレオは妹と同じかそれ以上の切れ者だった。今は隣国へ留学中であった。

 「帰国していないです。見つければ前の国王や宰相と同じように悪魔島に幽閉します。さもなければ永遠に帰国できぬようにするだけです。現在、暗殺部隊を派遣しています」

 ネルディ「伯爵」は気色悪い顔をして恐ろしい事をいった。この国では新たな「国王」と「宰相」にとって有害と判断されたら粛清されていた。二人とも平凡な能力しか持ち合わせていなかったが、野心だけは平均以上だった。そして二人ともカルメンが好きだった。

 「宰相、今日はカルメンと一緒に過ごす! 俺は国王だから王妃と過ごすのは当然だろ!」

 「わかりました! 明日は大婚礼ですが、いいです!」

 ネルディ「公爵」は応じていた。彼の頭の中では娘に惚れてくれて本当によかったと興奮していた。カルメン、ありがとう!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

処理中です...