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婚約破棄!

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 カルメンに対する想いは本当の愛だとアルベルトは信じていた。カルメンを嫁にしたい! それが一番の願望であった。だから障害となるものは全て除去しなければならないというわけだ。完璧すぎる婚約者という存在と、それを除去するのに抵抗する者を。

 「陛下はどうなされたのですか?」

 サンドラの問いかけは園遊会会場にいた参加者の大多数も知りたいことであった。アルベルトは少し考えてからこういった。

 「陛下? 親父の事か? まあ、分かることだから言うが、親父たちは引退してもらったのさ。お前との婚約破棄を認めてもらおうと思ってきたが、許してくれなかった。だから実行したまでさ! なんだって要らない婚約者を追い出すにはこれしかなかったからな。
 これで分かっただろサンドラ! お前は要らない女だから国外追放だ! 本当なら婚約破棄されるような娘は拷問・・・いや相応の罰を受けてもらわねばならないが、ここにいるカルメンに免じて許してやる! この場から立ち去るがいい!
 そうそう、その女性王族の勲章は返せ! それとその鬱陶しいヴェールも外せ! 目障りだ! それとこれは路銀だ! くれてやるからこれ以外は何も持ち出すな! いいな!」

 アルベルトは部下に小さな革袋と引き換えにサンドラから勲章を剥奪した。これでサンドラとの婚約破棄は成立した。そしてヴェールを脱いだ彼女の顔は、涙一つ浮かべていなかった。婚約破棄と国外追放という不条理な命令を受けたというのにである。

 人々はサンドラを憐れむとともにアルベルトに対し厳しい目を向けていた。譲位される地位なのに王位を簒奪した彼に。その眼差しにアルベルトはこういった。

 「国民ども! 俺は国王に即位する! そして横にいるカルメンを王妃とする! だから祝え!」

 その時、会場内に武装した近衛兵が入ってきた。どうやらアルベルトはクーデターを起こし王位奪取に成功したのだと認識するしかない状況だと会場内の者たちは察した。

 「アルベルト国王陛下万歳! カルメン王妃陛下万歳!」

 会場内は強制された歓喜の声で満たされた。その声を背中にしてサンドラは不浄門とされる裏口の肥料搬入口から外へ出て行った。要らない婚約者を追い出すことができたアルベルトは満足であった。横にいるカルメンとの本当の愛が成就できることに。

 「カルメン! これで君と夫婦になれる」

 そういってアルベルトは熱い抱擁を園遊会の参加者の前で見せつけた。かくして園遊会はアルベルトの即位と婚約の発表会と化した。クーデターに成功した宣言でもあった。

 一方のサンドラといえば、前もって使用人に用意してもらい隠していた粗末で汚れた農婦衣装に着替えていた。髪を泥で汚し同じように体に肥料を振りかけた。浅はかなアルベルトの事だから国境に行くまでに抹殺するに違いなかった。差し詰め国民には「盗賊にでも襲撃された」とでも発表するに違いなかった。それまで着ていたドレスは背格好が似ている娘に着替えてもらっていた。

 「ふー、あのお方がおっしゃっていた通りになってしまったわね。能力もないから嫉妬していたとは思っていたけど、本当に婚約破棄するなんてね。そんなに嫌なら直接言えばいいのにね、わたしだって考えてあげてもよかったというのにね、本当にとんでもない事をするから、浅はかね!」

 汚れたサンドラは、あらかじめ雇っていた汚い身なりをした王宮内に献上品を届けに来た農民に紛れて外に出た。一方のサンドラのドレスを着せた娘は王宮前の定期運行の馬車に乗ったが、案の定近衛兵が尾行していた。

 「あの子、大丈夫? 殺されなければいいけど」

 サンドラは心配したが、横にいた老婆はなだめるようにいった。

 「大丈夫よ。あの馬車はわざと行方不明になったかのようになりますから。そして第一王子は勘違いしますわよ」

 そういって老婆は只者ではない雰囲気を漂わせていた。

「それならいいけど。それにしても国王陛下はどうされたのですか?」

 サンドラは心配していた。今日婚約破棄をされるのは予想できたが、まさか王位簒奪のクーデターという愚挙まで実行するほどアルベルトが馬鹿だと思っていなかったからだ。

 「陛下は幽閉されたようです。ついでに宰相閣下など穏健派も拘束されたようです。やはり、ネルディ子爵一派の悪だくみのようです」

 ネルディ子爵はカルメンの父親であった。惚れた弱みに付け込んでアルベルトをけしかけたに間違いなさそうだとサンドラは確信していた。

 「そういうことなら、どれからやりましょうかね」

 サンドラは頭の中で今後なにをするかを考えていた。その考えの中にはアルベルトと復縁するという選択肢はなかった。



 
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