【完結】生物兵器と合体した彼女

ジャン・幸田

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’(7)終局

封鎖地区

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 纐纈が散華して三ヶ月。同じく門田と静香が最期をむかえた地を訪れる者がいた。そこはI県にあるN空港があった地区だった。N空港周辺は生物兵器同士の決闘により広範囲が汚染されたため、政府により封鎖地区に指定された。一般には正体不明のテロリストが劣化ウラン弾を使用したとして、低レベル放射能汚染によるものだと説明していた。

 N空港は元々一日一往復しか定期便のない過疎空港で、事件後使用できなくなっても社会的影響は大きくなかった。また民家もないような山間部だったので、民間人の目撃者は皆無だったため情報の遮断はしやすかったが、政府は情報を隠蔽していると信じて行動していた。

 その者は「月刊レムリア」というオカルト雑誌と専属契約している洗川聡だった。洗川はI県で起きた一連の事件、女子高生失踪事件、レイシスト惨殺事件、女子高生の同級生二人失踪事件、旧炭鉱の謎の大爆発事件、そしてN空港襲撃事件を追っていた。全て当局が公表している事は虚偽だと考えての事だった。事件の真相を知る当事者にとって都合の悪い事実を隠蔽するためだと。

 「洗川さん、かなりやばくないですか?」

 助手としてついてきたのは門田誠司、門田の従弟だった。そもそも失踪してしまった門田について母親である叔母の様子がおかしいとして洗川にリークしたのが全ての始まりだった。

 「ああ、やばいさ。だからこそ行くんだ。だってそうだろう、大手新聞社は政府の犬だし雑誌だって監視されている。でも真実を暴かないといけないんだ!」

 洗川はいきりたっていたが、門田はどこかの芸能人の不倫を掴むために監視している方がリスクが少なかったのにと後悔していた。封鎖地区に続く道路は全て封鎖されているので、相当手前から獣道を入り道なき道を進んでいた。途中野宿もしたが監視している自衛隊に見つからぬように熱遮断寝袋で過ごしたりしていた。二昼夜かけて到達したのは三日目の日没前だった。

 目の前には公式にはテロリストによる地対空ミサイルで撃墜されたとされるC-2輸送機の残骸があった。二人には違和感がすぐ分かった。積荷などは回収されている様であったが、搭載されていたエンジンがほぼ原形をとどめて放置されていた。

 「エンジンのが原形をとどめているぞ! ふたつとも! 地対空ミサイルの攻撃ならどちらかが大破しているはずなのに!」

 地対空ミサイルは熱感知誘導システムで目標に向かうはずなので、もし撃墜されたのであればエンジンの噴出口もしくは主翼が破壊されているはずだった。しかし墜落現場には殆ど壊れていない主翼が転がったままだった。

 「それにしても、主翼だけ放置しているなんて! その割には胴体部分の回収作業は念入りにやったようだな。わざわざモノレールまで仮設しているし」

 洗川はそういうと、再び斜面に戻り上を目指した。封鎖地区は広範囲であったが、周辺は殆ど国有林で侵入そのものが違法行為だった。空港に続く道路は全て巨大なコンクリートブロックで封鎖されていたので、当局が何かを隠蔽しようとしているのは明らかだった。それに、事件後当局から現場の写真なり映像が一切公開されないのも不自然だった。

 二人は日が暮れてからN空港の滑走路に侵入した。その日は土曜日で人員の配置が手薄だと思われた。滑走路があったであろう場所は大きく破壊されていた。それは生物兵器同士の戦いによるものであったが、二人は知る由もなかった。暗闇の中監視する自衛隊員の姿を見たがその姿は異様だった。対生物戦用の防護服を着ていた。

 「これって・・・思ったよりもやばいかもしれないな」

 洗川の口調には後悔がにじんでいた。
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