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(参)四龍の勾玉

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 その夜は春まだ早く寒かった。そのため二人寄せ合って眠っていた。香織からすれば桔梗の身体の温もりは愛おしいものだった。嫁いでからというもの、妻として扱われず最初は使用人、次いで虜囚扱いだった五年間。ここまで親身になってくれた人はいなかった。全ては目的の為であってもよかった。

 夜が明けてきた。桔梗が床下から出て安全を確認してから出てきた。そこは朝日が満ちていた。その中にいる桔梗は美しく見えた。

 「香織さま、大丈夫です。連中はいないようです」

 朝になって海が輝いて見えていた。夜中歩いてきた道を振り返ると、入り江に連絡船が止まったままだった。

 「みんな、大丈夫かしら?」

 「大丈夫のようです、連中は引き上げたようです」

 その時、桔梗はこれからどうしようと迷っていた。日厚狭島は五洲本土のすぐそばだったが、どうやって脱出しようかを。影の連中がしつこく追ってこなかったのは、島の周囲を固めておけばそのうち出るのは時間の問題だと思っているからだ。

 「とりあえず、いいですか桔梗さん」

 「どうされました?」

 「お腹すいたのよ」

 そういうと香織の腹の虫が泣いた。それに桔梗は微笑んでいた。

 「ごめんなさい。そういえば昨日の昼から真面に食事していなかったですね」

 そういって桔梗はリュックのなかから乾パンを取り出した。
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