死んだことにされた処女妻は人外たちと遍路の旅をする―

ジャン・幸田

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(参)四龍の勾玉

人外たちの追手!

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 どんな手段で鉄道公安官の制服を手に入れたのか分からないけど、駅から人外たちが勢いよく駆け出していた。それに対して桔梗さんはなにやらカバンから取り出した。

 「ちょっと迷惑だけど仕方ないわね。取りあえずは! ちょっと田貫さん向こうむいていて!」

 そういって、桔梗さんは棒のようなモノを縁石にこすり付けて追手の前に放り出した。すると、物凄い勢いで煙が上がった。それには広場にいた人たちが驚いていたけど、追手の人外たちはその煙を見るなり倒れこんでしまった。

 「桔梗さん、早く逃げましょ! あんなものをここで使うだなんて、人外に捕まるより先に警察につかまりますてば! 商売道具を一緒に持ってくださいよ、まったくもう!」

 田貫さんは両目を塞ぎながら走り出していた。その煙には人外たちの動きを一時的に封じてしまう効力があるようだった。取りあえず駅前通りを南の海側に向って走り出して、とあるレンガつくりの古いビルに入った。そのビルが田貫さんのアジトのようだった。

 「ふー! どうなるかと思いましたよ全く! あんな禁じ手を使うだなんて! あとで警察に手を回しておかないといけないじゃないですか! あんな事をしたら・・・まあ愚痴はここまでにしておきますわ。
 それよりも、そこのお嬢さんが例の勾玉の継承者なわけですか? 本当に占部家も十年も人外たちにバレない様に匿っていたもんですな。あっしもこの依頼を聞くまで知りませんでしたわ! 」

 田貫さんも勾玉の事を知っているようだった。もしかすると私よりも。それにしても十年前に叔母に何が起きたというのだろうか? 思い出そうとするけど叔母の事は詳しく分からなかった。分かるのは母とは双子の姉だったということだった。
 
 「そうよ! あたしがね香織、いえ香織さまをお守りしてきたのだからね、完璧なはずだったのよ! まあ、勾玉継承計画は大きく変更を余儀なくされたけどね。それよりも持っているんだろ、あれを!」

 「へえ、ちょっと待ってくれまし」
 
 田貫さんは本棚の中から本を取り出すと一枚の紙を取り出した。その紙は不気味な色をしていて読めない字が書かれていたが、一つだけ私が分かるものがあった。私の顔が書かれた。それが人外たちによる私の手配書ってことなの?

 「ほお、やっぱりそうだったのか。それにしても、これがそちらに届いたのはいつの事なのか?」

 「へい、一週間前ですわ。これを作ったのは闇の世界のやんごとなきお方という触れ込みですが、あてにはなりません。あっしが懇意にしている情報屋から仕入れたのですよ。でも、死んだと聞いていた鳳凰宮香織妃が継承者なんて思いませんでした。それで占部の旦那の耳に入れたら、昨日の夕方になって二人の事を手配しろというじゃないですか! 本当に大変でしたんですよ! 本当なら三日ほしかったですよ! おかげで徹夜でしたよ! 占部の旦那に伝えといてくださいよ! 割り増し手当くれと!」

 「わかった! 言っていておくわよ! その文字を翻訳して読んでくれないか? 私も半分しか意味をとれんから」

 そういうと、桔梗さんは大きめの銀貨一枚を田貫さんに渡した。それって翻訳のお駄賃のようだった。

 「分かりましたよ! えーと。この顔の者は四龍の勾玉の継承者たる鳳凰宮香織である。この者は死んだことにされているが実は生きていて宮の座敷牢に幽閉されている。この者を連れ出し、二つ龍が・・・の島に身柄ともども連れて来る事。それを達成したものには相応の力と富を授ける。なお継承者の生死は問わぬが必ず両者を持参する事。以上!」

 私には・・・の発音を聞き取れなかったが、それは人外にしか解せない単語のようだった。でも桔梗さんには理解できたようだ。

 「そうかい! また、あれをしようとしているのか、十年前と同じように! でも香織様には出来ないの知らんのかしらん! 継承者であっても欠けているものがあるというのに! 欠けさせることで安全だと思ったんだが・・・何故か知らぬか?」

 その意味は分からなかった。でも勾玉の力を使えるのは継承者のみであっても完全に使いこなせるようになるのは、今の私には無理だという事はわかった。

 「知りませんよ! 知っていたら、あっしも・・・失礼、あっしは占部の旦那に忠誠を誓っていますから大丈夫です! それにしても、何故軍の輸送船を使わないのですか?」

 「当たり前だろ! この国は負けたんだから自由にならんのさ! まさか占領している奴に説明できるか? それよりも輸送船の手配は出来ているんだろ?」

 どうも桔梗さんは田貫さんと話す時は口が悪いようだった。だから力関係は桔梗さんの方が上のようだった。
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