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(弐)処女妻の時代

人外とは?

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 座敷牢を思わぬ形で脱出出来たらすぐ旅に出る事に私は従う事にした。実家は焼失して家族を失っているし嫁ぎ先は事実上追い出されたから。まあ嫁ぎ先といっても使用人兼勾玉の所有者という扱いでしかなかったから頼まれても戻るつもりはなかった。だから陛下の頼みは渡りに船だったわけだ。

 まず以蔵さんに旅についての計画を教えてもらった。勾玉記の失われた部分は本来勾玉の所持者が知っているはずの部分で、そこだけは所持者を守護してきた占部家も知らないという。その失われた部分は私の曾祖母であった綾部静子が遍路の旅の途中で何処かに隠匿したようだという。隠匿した理由は所持者が不慮の死を迎えた時に備えてのことだという。今がその事態だという。

 では、どうして十年も探そうとしなかったの? という疑問があったが、それはすぐに必要になると判断できなかったことと、戦争により占部家も動きづらかったという。もし、問題が起きなければ鳳凰宮に娘が産まれ(私がお母さんになるってことね)て、その娘が大きくなってからでもいいと思っていたという。でも、そんな悠長な事態ではなくなってしまった。カラスどものように勾玉を狙う者が現れたから。しかも占部家の先を越して私を連れ去ろうとしたのは明らかな失態だった。

 そんなことを話していたら昼前になって桔梗さんが戻ってきた。私はおもわず彼女にだきついていた。私にとってお姉さんみたいな存在であるし、私を守ってくれたことに感謝したかった。

 「桔梗さん、大丈夫ですかその腕は?」

 その時、左腕は指の先まで包帯に覆われていた。カラスの頭との戦いで負傷したようだ。

 「それは大丈夫です! それよりも長い旅になりますが足腰大丈夫ですか?」
 
 「それは・・・多分行けると思います」

 私は不安があった。元々足腰は強い方だったけど、半年近く座敷牢に閉じ込められていたので身体がまだ鈍ったままだったから。それで少し外を回ってみたかったが止められた。カラスどもの監視があるかもしれないからといって。

 「あのカラスどもって何者なのですか?」

 私は尋ねていた。カラスの顔に黒い羽に覆われた身体。尋常ではないからだ。


 「あいつらは、この国に昔から存在していた物の怪たちです。普段は人間の姿をしていますが、時と場合によってはああやって正体を現すのです。まあ人外というわけです」

 「人外って何ですか?」

 「それは・・・すこし蔑んだいいかたですが、人間を超えた姿で力を発揮する者たちという意味です香織様。今まででしたら節度を持った行動をしてきたのですが、戦争が終わって政治体制に混乱が起きている今は完全に制御不能になっているのです。政府も最近になって元のようにしようとしているのですが、香織様が持つ勾玉の力を使って天下を取ろうと動き出した人外がいるのです。だから急いで鳳凰宮からお連れ致したかったのですが・・・本当に申し訳ございませんでした」

 「桔梗さん、謝らないでください。それよりも今日はこれからどうすればいいのですか?」

 「それは、香織様。旅の準備ですわ」

 そういって桔梗さんは隣の部屋に私を連れて行ってくれた。
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