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(弐)処女妻の時代

魅力的よ!

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 「ホントーに長湯が好きなの、あなたったら! 若いのにすごいわね!」

 藤原さんのくしゃくしゃな顔は笑顔の花を咲かせていた。私はお糸さんとの昔話が少し長引いたので、長湯していたようだ。

 「それにしても、いい身体をしているわね! あなたの胸も腰も立派だし、本当に良い子供のお母さんになれるわよ!」

 脱衣場で湯上りの火照った身体を拭く私の身体を見て褒めてくれたけど、少なくとも私って一般的には標準以上の身体なんだと嬉しかった。病気らしい病気もしたことなかったけど、殿下の前ではどんなに淫靡で妖艶な裸同然な衣装で寝室で待たされても手出ししなかったから自信がなかったので安心していた。

 「香織様、あなたは羨ましいわ。もし次に生まれ変わるのなら香織様みたいになりたいなあ」

 お糸さんの声が聞こえていた。私は急いで浴衣に着替えて勾玉をお守り袋に入れて手にした。

 「それは褒めてくれたという事でいいのよね。まあ男の人に身を捧げたことないから、感想を聞きたいところだけど、この遍路の旅が満願成就するまでは出来ないけどね」

 浴衣姿の後ろにはお糸さんがついてきていた。彼女の幽霊の魂は弾正さんが持っている魂移しの鏡に留まっているので、不完全な今の状態で成仏しないようにされているし、概ね一里(おおよそ4Km)以上は離れる事が出来ない。

 「そうなんですか? それじゃあ満願成就の暁には、香織様の娘として生まれ変わりたいですね。そうしたら勾玉の守護者になれますから。それはそうと疑問なんですが」

 「疑問? なあに?」

 「その勾玉は処女でないと力を発揮できないそうだけど、後継者の娘が生まれるまでの間、誰が守るのですか?」

 「それはね、これも長い話なんだけどね。代理の娘が勤める事になっているのよ。だから鳳凰宮の家に留まっていた間、ずっと待機していたんだけど・・・待ちぼうけになったということだね」

 「代理の娘、ですか? そんな人がいたのですか? それに今は何処にいるのですか?」

 そういって、お糸さんは周囲をキョロキョロしていたけど、それらしき姿は見つけられなかったようだ。

 「彼女は・・・もしかすると殺されたかもしれないのよ。生きていたらいいけどね」

 「こ、殺された? まさか鳳凰宮の人たちに?」

 「それはないわよ、その女が言っていたわ。この勾玉の価値を知っていて、もし悪用したなら・・・この国を暗闇に落とせると。まあ、この国は先の戦争で全てを失う寸前まで追いやられたけどね。結果として鳳凰宮の家で匿われていたわけよね」


 そう言っているうちに客室についてしまった。そこにいた客の中でも私は若い方であったが、藤原さんが言いふらしたのか、私を見に他の宿泊客が寄って来た。みんな魅力的よ! 映画女優みたいだといってもてはやしてくれた。それにしても、私って女としての価値が低くないんだと感じたけど、男で言い寄ってきたのは弾正さんだけというのが現実だ。それにしても弾正さんは私をどう見ているのだろう?
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