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(壱)旅立ち
お糸さんの頼み
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「ああ、わしゃのお、敵軍の豪雨のような弾丸を潜り抜けて来たし、戦友が次々と斃されても生きてきたんだからのお! ああ、幽霊なんて怖くねえ、恐くねえ!」
弾正さんは、お糸さんを見ようともせず顔を向けようともしなかった。なので私がお糸さんとお話するしかなかった。
「お糸さん、人柱といったよね、どおしてここにいるの? どおして私たちにあなたの姿が見えるの?」
私の目の前に現れた彼女は、ひどく痩せこけた顔をしていて、歳のころは16ぐらいに見えた。そして彼女の巫女装束をよく見ると袖になぜか赤い紐のようなものが絡んでいた。
「うーん、なにから言えばいいかしら? 人柱といったけど、この国がお侍様が偉そうにしていた頃なんだけどね。そうそう、あたいの身の上話だけど長くなるけどいい?」
「いいわよ!」
お糸さんの話は小一時間以上続くので、かいつまんで人柱にされた経緯を言うと、治水の為に堤を作っていたんだけど難工事だったので誰か役人が人柱が必要なんて言い出して。それで処女を差し出そうという事になったという。それで働いていた若い娘の中で継ぎ接ぎだらけの着物を着ていた、お糸さんが選ばれてしまい無理矢理生きたまま埋めたという話だった。本当に残酷な話だわ、これ! お糸さん、可哀そうよ!
「それでね、埋められた時に着せられたのが巫女さんの衣装だったわけなのよ! ひどいと思わない? だって初めて着せてもらった新しい着物が死に装束になったのよ! それで堤の守り神なんて崇めてもらったけど、嬉しくないわよ!成仏できなかったしね! 下手な祀られ方されたしね」
お糸さんは、話し出したら止まらない質のようだった。それで私は疲れてきたなあ、眠たいしと思って横を見ると死にかけたような状態で弾正さんが聞いていた!
「そうなんだ・・・でも人柱なら、この土地の神として祀られているのだから、別に幽霊にならないんじゃねえのかよ?」
弾正さんの指摘に、お糸さんの弁は熱を帯びてきた。
「そうよ! あたいはねえ、埋められた場所に近いお堂で祀られていたのよ! ここがお堂だったのよ! でも分かるでしょ、この荒れようを! このあたりの人たちはあたいのことなんて忘れてしまったのよ! そのうえ折角あたいを殺してまで築いた堤を近ごろ壊したのよ! お祓いもせずによ! どうやら川幅を広げるためのようだけど。だからあたいは地の神ではなく、ただの幽霊になってしまったのよ! 本当に頭にきちゃうわよ! まったく!」
そういうと、お糸さんは私に近づいて来た。手に触れようとするけど・・・冷たいよ、彼女は! 触感はないけど、寒さだけ感じるわ! そう思っていたら彼女の要求はなんだろうと考えてみた。私の身体を乗っ取る? まさか! まあ、私はこの世にいない事にされてはいるけど。
「どうやら気付いていないようだけど、あなたって霊力があるようよ。だってある程度無いと見えないのよ、あたいの姿はね。で、御願いなんだけどね。あなたの名前なんていうの? なんだか偉そうなお侍さんの娘のような匂いを感じるけどね」
「わ、私は香織よ」
「そうかあ、香織、いや香織様! あたいのために地縛を解いてもらえない? 出来るはずだから!」
え? 幽霊が私に何をしてほしいというわけなのよ! 一瞬頭の中が真っ白になった。
弾正さんは、お糸さんを見ようともせず顔を向けようともしなかった。なので私がお糸さんとお話するしかなかった。
「お糸さん、人柱といったよね、どおしてここにいるの? どおして私たちにあなたの姿が見えるの?」
私の目の前に現れた彼女は、ひどく痩せこけた顔をしていて、歳のころは16ぐらいに見えた。そして彼女の巫女装束をよく見ると袖になぜか赤い紐のようなものが絡んでいた。
「うーん、なにから言えばいいかしら? 人柱といったけど、この国がお侍様が偉そうにしていた頃なんだけどね。そうそう、あたいの身の上話だけど長くなるけどいい?」
「いいわよ!」
お糸さんの話は小一時間以上続くので、かいつまんで人柱にされた経緯を言うと、治水の為に堤を作っていたんだけど難工事だったので誰か役人が人柱が必要なんて言い出して。それで処女を差し出そうという事になったという。それで働いていた若い娘の中で継ぎ接ぎだらけの着物を着ていた、お糸さんが選ばれてしまい無理矢理生きたまま埋めたという話だった。本当に残酷な話だわ、これ! お糸さん、可哀そうよ!
「それでね、埋められた時に着せられたのが巫女さんの衣装だったわけなのよ! ひどいと思わない? だって初めて着せてもらった新しい着物が死に装束になったのよ! それで堤の守り神なんて崇めてもらったけど、嬉しくないわよ!成仏できなかったしね! 下手な祀られ方されたしね」
お糸さんは、話し出したら止まらない質のようだった。それで私は疲れてきたなあ、眠たいしと思って横を見ると死にかけたような状態で弾正さんが聞いていた!
「そうなんだ・・・でも人柱なら、この土地の神として祀られているのだから、別に幽霊にならないんじゃねえのかよ?」
弾正さんの指摘に、お糸さんの弁は熱を帯びてきた。
「そうよ! あたいはねえ、埋められた場所に近いお堂で祀られていたのよ! ここがお堂だったのよ! でも分かるでしょ、この荒れようを! このあたりの人たちはあたいのことなんて忘れてしまったのよ! そのうえ折角あたいを殺してまで築いた堤を近ごろ壊したのよ! お祓いもせずによ! どうやら川幅を広げるためのようだけど。だからあたいは地の神ではなく、ただの幽霊になってしまったのよ! 本当に頭にきちゃうわよ! まったく!」
そういうと、お糸さんは私に近づいて来た。手に触れようとするけど・・・冷たいよ、彼女は! 触感はないけど、寒さだけ感じるわ! そう思っていたら彼女の要求はなんだろうと考えてみた。私の身体を乗っ取る? まさか! まあ、私はこの世にいない事にされてはいるけど。
「どうやら気付いていないようだけど、あなたって霊力があるようよ。だってある程度無いと見えないのよ、あたいの姿はね。で、御願いなんだけどね。あなたの名前なんていうの? なんだか偉そうなお侍さんの娘のような匂いを感じるけどね」
「わ、私は香織よ」
「そうかあ、香織、いや香織様! あたいのために地縛を解いてもらえない? 出来るはずだから!」
え? 幽霊が私に何をしてほしいというわけなのよ! 一瞬頭の中が真っ白になった。
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