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2 凶兆

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 今回の事態が起きる一か月前のことである。18歳になったクリスは皇太子妃に内定していた。しかし、その時からウェリス皇国の各地で奇怪な事件が続発するようになった。突如、集落が住民ごと消失したり、市街地に人外な存在が出現し人々に危害を加えたりするなどである。いにしえの伝承によれば、そういったことが起きるのは、時の政権の責任であり、場合によっては滅亡の前兆であるとされていた。

 そんな凶兆ともいえる事象が起きる原因を、政府や皇室ではなく別の要因だと決めつけたい勢力がいた。そんな勢力のターゲットはクリスだった。クリスの生家であるヴィクター家は、古くから皇国に仕える爵位を持つ名家であったが、様々な謎があると噂されていた。古代に滅んだ忌まわしい文明の利器を持っているとか、錬金術師が密かに伝えてきた禁断の技を秘匿しているなどである。だからといってヴィクター家が今回の凶兆の原因と断定する証拠はなかった。

 「クリス、お前に言わないといけないことがある」

 クリスの父でヴィクター家当主アーサーは娘を地下の納骨堂に案内していた。クリスは皇太子妃に内定してから常に護衛という名の監視が付いているので、お墓参りを名目に護衛兵を一時的にまいていた。もちろん、短時間しか許されなかった。

 「お父様、なにでございますか?」

 亜麻色の長い髪に手をかけてクリスはドキドキしていた。最近身の回りでも不吉な事が起きていた。婚約したばかりの皇太子エドワーズが心身ともに異常をきたしていたうえ、皇族一家も同様であったし。

 「手短に言う。この国はもうすぐ影に乗っ取られる。もしかすると私の命は真っ先になくなる。しかし、お前だけはどんな形でも生き残れるようにしているから、そのつもりで」

 「そんな・・・恐ろしい事が起きるなんて! どうにかならないのですか?」

 クリスのドキドキは不安なものへと変わっていた。穏やかな話でなかったから。

 「どうにもならない。ただ、影に支配されても策はある。それは・・・」

 アーサーが続きを言おうとしたとき、外からノックがした。なんて気が短い護衛だと思っていたらアーサーは手に持っていた紙にこう書いた。

 ”護衛に聞かれたらまずいからやめる。近いうちに婚約破棄になるから、その時は即座に逃げる事!”

 その時、納骨堂には異形の女性戦士の像が横たわっていた。それは超古代文明が生み出した存在であった。
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