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あの夏の日へ

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 ふたりを乗せた新幹線は西へと向かっていた。その日は夏休み前の平日、乗客はあまりいなかった。

 「あなたと、こうして旅に出るのは、一体いつだったかしらね」

 智子は上機嫌だった。千佳からすれば、失踪して姿を消していた母に連れられ迷惑千万であった。そもそも失踪した理由をまだい聞いていなかった。

 いくら関係が悪化したからといっても、心配はしていたのであるから。でも、なんか言い出しにくかった。母は何故か若返っているのが不気味だった。

 「これから行くところはかなり田舎になるのよ。そうあの夏の日に映画のロケをしたとこだよ」

 智子はそう言って新幹線の座席に深々と腰掛けていた。気分はもうレジャーそのもののようだった。千佳からすれば母と旅行に行ったことなんで記憶は全くなかった。もともと母子家庭としての時代が長く、母は昼も夜も働いていて生活を支えていたからだ。そういえば父親の記憶はなかった。千佳はそれを触れるのがタブーだったと感じていたし、興味もなかった。

 「そうですか、なんでいくのよママ」

 「それはね・・・ついてからのお楽しみよ」
 
 智子はいたずらな笑顔を浮かべていた。その笑顔の裏にある得体しれないものがしみだしているのに気づいた千佳は不安であった。
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