【短編完結】追い出した婚約者に呪われた男

ジャン・幸田

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【承】

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 俺は美羽を追い出すのを亀吉に全て任せた。それにしても美羽と何故婚約したのか忘れかけていた。たしか親戚の誰かが持ち込んだ話で、結婚すれば幸運をもたらす存在になるというのが、触れ込みだったはずだ。それに婚約したのも周囲の大人どもが勝手にしたことで女として興味などなかった。そんな俺は美羽が自分にとって無価値だと気づいたのは、進歩だと思えた。

 結局、美羽は亀吉の不正確な仕事の指示で大きな失敗をすることとなった。それにより、正当な解雇と婚約破棄の口実を手に入れる事が出来た。それに対し強く反対しなのは何故か俺の両親だった。なんで破棄するのか意味が分からないと主張した。でも、亀吉が上手に説得してくれたおかげで、美羽はクビになり婚約者でなくなった。

 「それでは皆さん、お世話になりました。お元気で」

 あまり多くない荷物を背負い朝早く美羽は出て行った。それを見送ったのは数人の若い女中だけだった。俺も亀吉も立ち会わなかったが。二階の窓からこっそりのぞき確認した。間違いなく美羽が出ていくのを見届けた。

 「若旦那、これで障害が無くなりましたね。旦那様の了解を得ておりますので、来週見合いをしてみませんか? 釣り書も何通もきていますから」
 
 亀吉は嬉しそうに言った。婚約破棄が決まる前に既に見合いの話を進めていたからだ。俺は嬉しかった。これで華もない美羽の事をきれいさっぱり消去できるはずだった。でも、それは大きな間違いの元であった。

 何件か見合いをしたのちに、俺が選んだのはこの国随一の財閥の令嬢だった。向こうの当主は俺の将来性に惚れたといってくれた。その時は人生の絶頂期だった。花嫁のための新居を造作し、彼女の趣味に合わせた内装も金に糸目をつけずに施した。結納も済み後は結婚当日を迎えるだけだったが・・・

 「し、式は中止?」

 披露宴の料理の準備も完了し、後は花嫁の到着を待つだけだった時の事だ。先方からの使者は恐ろしい事をいった。

 「実は、花嫁が気がおかしくなりまして、狂気を発症いたしまして療養所送りになりました。なんでも、そちらの家に嫁入りすると狂い死ぬなんていって暴れるのです。とりあえず、今日は中止という事で。今後の事については。改めて相談させてください」

 使者はそういって帰ってしまった。取り残された俺は披露宴に用意した料理が無駄になるので、参列者が希望すれば飲食するか持ちかえってもらった。当然、お祝儀はもらえないので巨額の赤字になった。結局、先方の花嫁は回復せず破談になった。後日、財閥から被害弁償と慰謝料を貰う事が出来たが、この頃から噂されるようになった。

 「なんら落ち度のないのに婚約を破棄された美羽の祟りだ、それは始まったばかり」と。
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