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【起】

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 俺は清次郎だ! 大きな大店おおだなを経営している家の若旦那だ。金さえあれば女もなんともなる! そうであったが、邪魔な女がいた。婚約者の美羽だ! 大して美人じゃないし体つきも貧相だ。長所といえば真面目で愛想がいいことだが、俺の妻としては不合格だ!

 美羽は元々は別の商店主の娘で、女学校を卒業したら結婚する約束で婚約した。でも、そのあと不幸が彼女に降りかかった。実家の商店が潰れ、両親も病死したのだ。そのせいで家に居候する事になったが、結婚の話が進まなくなって、女学校を卒業してから家に就職して住み込みで働いていた。だから、婚約者ではなく従業員にしか思っていなかった。

 「旦那さま、おはようございます」

 美羽は挨拶してくるが、俺はいつも返事は手をあげるだけだった。面倒くさいからだ。それに婚約者といっても、何か特別な事はしなかった。だから従業員のなかには婚約者という事も知らない者もいるぐらいだ。

 「若旦那、そろそろ結婚されませんか? 若いから女の事遊びたいのはわかりますが、身を固めるのもよろしいことだと」

 番頭の亀吉はそういうが、俺は面倒くさかった。

 「美羽のことか? 今更だけど利点メリットなんてあるのか、あいつに」

 俺にとって婚約者の存在は邪魔だった。結婚する気にもならないのだ。もしかの時に嫁の実家に頼る事なんぞ出来ないし。最近では時々縁談が舞い込むようになったのだ。その中には魅惑的な容姿端麗で金回りの良い女もいた。美羽のように奉公人は無視したかった。

 「ありませんなあ、正直。若旦那にその気はないでしょ! 特別何か感情ありますか?」

 「あるか! あいつを抱く気にもならない! それに若女将になんて器でないだろ!」

 「そうですなあ・・・いくらでも良い相手はいますから若旦那には。そうだ! 一層の事婚約破棄しましょ!」


 「婚約破棄か? でも、慰謝料がいるだろう。それに、従業員として雇っているんだし。今のように人出不足の時代にクビに出来ないだろ。まあ、大した仕事をしていないし、いなくなっても構わないか」

 俺はそういったが、番頭の亀吉は悪知恵を俺に授けてくれた。

 「それは大丈夫ですよ若旦那! 美羽には大きな失敗の責任を取らせて辞めてもらいます! そのついでに婚約破棄をして追い出しましょう! そうすれば、結婚できます! うちにとってもそれが良いですから。やっぱり一生奉公人みたいな娘よりも、どこか良いお嬢様の方がいいですよ!」

 俺は亀吉に従い、美羽に罠を仕掛け婚約破棄することにした。それで俺は幸せになるはずだったが、それは大きな誤算を招くことにしかならなかった。美羽はこの店にとって座敷わらじみたいな存在だったから。座敷わらじを追い出した俺にはとんでもない事がまっていた。
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