上 下
55 / 57
人形の啓子と処女妻の啓子

暴徒に囲まれ(2)

しおりを挟む
 なぜ、こんなところを通ってしまったの? まさか哲彦の差し金? 啓子は疑っていたが、これは警備兵がただ道順を間違っただけのことだった。そのとき、前線に次々と精鋭を派遣していくため、未熟な兵士が警備する事態になっていた。この時の警備兵は陸軍学校を卒業したばかりの兵士で、それなりに訓練されていたはずであるが、修業年数を待たずして卒業させられたため、全て十代という構成であった。はっきりいってしまえば、哲彦の指示はあまかった。

 「おい、人形が動いておるぞ! カラクリかよ!」

 「捕まえてみようぜ! 見世物小屋に高値で売れるかもしれねえぞ!」

 「いいや、潰してしまえ! カラクリを見てみてえから」

 暴徒たちは好き勝手な事を言っていた。啓子は私は人間よ、人間じゃないのよ! そう言いたかったが人形化された身体を元に戻すのは自分で出来なかったし、そんな余裕はなかった。

 警備兵は暴徒に発砲したが、射撃が下手すぎるため当たらなかったようだ。しかも中途半端に撃ったので暴徒はさらに暴走した。

 なんとか、先頭にのっていた車両に乗り込むことが出来たが、その時、車両が猛発進したため暴徒を何人も轢いてしまった。その時、嫌な音がしたうえフロントガラスはクモの巣のようになってしまった。
しおりを挟む

処理中です...