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啓子が啓子を着る!

啓子が啓子を着る!(1)

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 わたし啓子の前にいる人形の啓子、ええい面倒くさいな、もう! その彼女の手には自分と同じ顔をした人形のマスクがあった。その人形の顔は少々大人びていて憂いがあって少女のように可愛らしいものであったが、微笑みのまま表情の動かないのが、不気味だった。当たり前だけど。

 「それを被るのですか?」

 答えなど決まっている事をわたしは聞いてしまった。確認するためだけど、メイドのわたしには拒否権などないのに。

 「そうよ! そうしなければわたくしの代理出来ないわよ。いくら素顔を誰も知らなくてもあんまり体形が違い過ぎたらバレるからね」

 そういって人形の啓子はわたしを椅子に腰かけさせた。これから人形の面をつけるようだった。まさに啓子が啓子を着る! であった。

 「最初だから、説明してあげるわね。この面は特殊な技術で作られたもので、長期間装着していても苦しくないのよ。食事は特殊なストローで流動食を口から摂取するのよ。被っている間の汗は面が吸収してくれるし、体温を適切に放出したり保持したりしてくれるから、快適なのよ。それに声は少し綺麗に聞こえるからね・・・」

 いろいろ人形の啓子は説明してくれたけど、よくわからなかった。とにかく被ればよくわかるって事のようだった。わたしは覚悟を決めた。

 「わかりました、御願いします」

 わたしはそういったが、これから人形たちによって人形にされるのが恐ろしかった。
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