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 「素晴らしいですわ! お世辞抜きに!」

 ウェディングドレスのコーディネイトをする貴族専門の女性は満面の笑みだった。その言葉にエリスは満面の笑みだった。エリスの花嫁衣裳姿は本当に美しかった。この姿を見た誰もが相手の新郎が霞んでしまうと思うほどであった。

 「ありがとうございます! うれしいです」

 その日エリスは子爵家から男爵家に嫁ぐことになった。八度目の婚約でようやく結婚式が出来そうだった。

 「それにしても、国王陛下に紹介されたといっても、よりによってグスタフ・フォン・カルヴァーブルグ様なのかしら? いくら陛下の古くからの友人といわれても」

 エリスの許には国王陛下直々のお祝いのメッセージと祝いの品と花束が贈られていた。いくら貴族の婚姻は形式的には勅許であっても下級貴族の花嫁にそのようなものが届くのは異例中の異例だった。

 「そう、ですねえ・・・」

 エリスの表情は少し曇った。最初の婚約から15年、本当に結婚運に見放されていた。最初の婚約者は幼馴染でもあった親戚筋の貴族であったが、思春期に入り平民の金持ちに気持ちが移ったといって婚約破棄された。その時いわれたのは「どんなに美しくて花嫁修業にいそしんでいても男として楽しめる女じゃないと嫌だ」というものだった。

 そのあと、六回婚約したが六回破談になっていた。二度目は国家反逆罪に連座する恐れがあるからと婚約者が国外逃亡し、三度目は事故死、四度目は病死してしまった。婚約者が三人続けて不幸になったという事でエリスは不幸を呼ぶ婚約者という悪評が定着してしまった。

 そのためエリスが婚約できる相手は限られてしまい、悪い噂がある貴族と婚約するしかなくなった。それでも5度目は別の貴族令嬢に結婚式当日に横取りされ花嫁衣裳で号泣したし、6度目の男も事業の失敗で結婚式前日に夜逃げされてしまい、何も知らないエリスは一日中待ちぼうけする羽目になった。そして悲劇は7度目の婚約であった。

 七度目の婚約はエリスの両親も慎重に慎重を重ね相手を探したため5年もかかったが、ようやく22歳の時に決まったがその相手は最悪だった。隠れて浮気するわ浪費するわであったが、それでもエリスは耐えていた。でも最終的には金に糸目をつけずに使わせてくれる女に乗り換えてしまい、エリスは捨てられてしまった。そのとき、社交界にエリスは阿婆擦れだとか男狂いなどとない事ばかり悪評を流布されたため、とうとう婚約者として検討されることがなくなってしまった。

 年齢的にも苦しくなってきたので、修道院に入るとかして一生独身で過ごそうと決心しようとしたときに、不憫に思った国王陛下が斡旋してくれたのが古くからの友人だというグスタフだった。一応、いやなら拒否しても構わないといわれたが、臣下として無下にすることも出来ず応じるしかなかった。でも、グスタフは80歳だった。

 結婚式にはそれなりの参列者がいたが、55歳も離れた新郎新婦は好奇心の目で見られた。そしてエリスは同情の目で見られた。なぜこんなことになったんだと。

 「それでは永遠の接吻を」

 司祭に促されエリスはグスタフとキスした時はじめてまともに相手の顔を見た。齢の割にしっかりした体つきにみえたが、頭髪は豊かであったが真っ白だし、脇には杖があった。

 「これで夫婦になった。末永くお幸せで!」

 そんな言葉をかけられたが、少なからず人々はこんな悪意ある事を思っていた。この婚姻は財産目当てではないかと。でもカルヴァーブルグ男爵家はこの国の中でも貧しい貴族だという評判であった。

 エリスは大きな不安を抱いて新郎と一緒の馬車に乗った。でも一切会話はなかった。二人ともまともに会話したことはないのでしかたないことだった。きっかけなどなかったからだ。

 古い石造りの屋敷では、使用人がそれなりに豪華な夕食を用意してくれたが、不安で胸いっぱいだったので、お腹は満たせても言葉はなかった。そして結婚初夜を迎えた。

 「今後とも、末永くわたしと夫婦でいてください」

 エリスは初夜の挨拶をしたが、夫婦の契りを期待していなかった。80歳の老人がそのような事をしてくれるとは思えなかったから。歴史上の英雄の中には正妻以外に子を70過ぎても産ませたという話を聞いたことがあったが、目の前のグスタフは出来そうもなかった。男爵家継承から40年独身でいたから。

 「僕もよろしく。あんまり緊張しないでほしいが・・・」

 そのときグスタフの声をまともに聞いた。エリスはせめて10年早く結婚したかったなと考えていた。夫に悪いが夜のお勤めなんかできないだろうと思っていた。せいぜい同衾していちゃつくぐらいしか想像できなかった。エリスは性欲に乏しく結婚するまで処女を通してしまったので、何をするかは最初の結婚のときに聞いていたけど、女として興味ないなんて言われ自信がなかった。

 「はい・・・」

 エリスが返事した時だった。目の前のグスタフが苦しみだした! グスタフは使用人を呼びにいこうとして。おろおろしていたエリスを制止した。

 「大丈夫だ! 毎日の事だ! でも驚かないでくれ!」

 グスタフがそういうとエリスの目の前に立ちはだかったが、彼の顔が恐ろしい変化をしていた。深い顔のしわがなくなりツヤのある綺麗な肌になり、髪も白髪から美しいブロンドに変化した。そして落ち込んでいたくすんだ瞳が輝き始めた。目の前にはたくましい青年がたっていた。それを見たエリスはその場で腰を抜かしてしまった。

 「隠していてすまなかったが、これは現実だ! 僕は永遠の呪いでこんな能力を持っているんだ」

 先ほどまでの老人は消え去りたくましい青年が目の前にいた。その青年にエリスは一目ぼれしていた。貴族との婚約に縛られ自由に恋しなかったエリスが抱く初めての感情であった。
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