アルテミスの着ぐるみ美少女たち

ジャン・幸田

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(6)二人の逃避行

着ぐるみたちとの出会い

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 その日、その場所に行かなかったら別の人生を歩んでいたのではないかと後で思うターニングポイントというのが確実に存在するが、俺と志桜里にとってまさにその時であった。目の前に着ぐるみ美少女たちが歩いていたからだ。

 それまで、遊園地のステージなどでちびっこ向けのナニナニショーなんかでキャラクターの着ぐるみがあるのは知っていたけど、その日みたのは本当にアニメの世界から出てきたような可愛らしいものだった。

 「あれって、着ぐるみだよな。あんなに可愛いモノだったんか・・・」

 俺は思わず言葉にすると、すかざす突っ込みを入れたのは香央里だった。香央里はその時一番詳しかったからだ着ぐるみに。

 「お兄ちゃん、あれって男だと思うよ。だって背が高いし肩幅が大きいし」

 「へ?」

 確かに言われてみれば背は志桜里よりも高いし、俺よりもずっと肩幅がありそうだった。

 「そうなの・・・でも女の子らしいわね。うらやましいわねえ・・・あたしは・・・」

 その時、志桜里は包帯に覆われたままの右手を顔に当てのぞき込むように見ていた。その顔はげっそり痩せていて女の子に見えない状態だった。だから男が女の子らしくなっているのが妬ましくもあり羨ましくもありといった想いを抱いていたようだ。

 「せっかくだからお姉ちゃん、一緒に記念写真を撮らない? 頼んでくるわ」

 香央里は何体かいた着ぐるみ美少女のなかから長く青い髪をしたクリッとした碧い瞳の美少女に声をかけた、あとで知ったが某工房の量産型オリジナルキャラクターの着ぐるみ美少女マスク「キョウコ」だった。

 香央里と「キョウコ」はジェスチャーで会話していた。そしてこっちに来てくれた。

 「なんで、この人しゃべらないの?」

 「それは掟なのよ着ぐるみさんの! 可愛い声でも被っていたら上手にしゃべれないからよね、キョウコさんそうでしょ?」

 香央里の言葉にキョウコは大きく頷いたが、そのしぐさは女の子のようにしなやかなものだった。「中の人」の努力が伺えるものだった。そして撮影は俺がすることになった。その日親父からもらった業務用のカメラを持っていたからだ。俺は二人と一体が絡む写真を何枚も撮った。するとキョウコがバックからカメラを差し出して来た。どうも撮ってくれということだった。

 それで同じように写真を撮っていたが、俺はキョウコに惹かれている自分に気付いていた。もちろん「中の人」ではなく「被写体」としてであった。「中の人」が努力して作り出したカリソメの姿に魅力を感じたからだ。おそらく俺よりも男らしいかもしれないのが、胸や腰にパットなんかを入れて女体化させて可愛いマスクを被り自分の存在を消すことで生まれた「キョウコ」を想うと、その刹那を愛おしく思えたのだ。

 そして別れ間際に「キョウコ」は握手をしてくれた。その手はずっと俺よりも大きかった。やっぱり「中に人」は聞くことは出来ないが男のようだった。でもその手はふわふわした感触だった。

 「キョウコ」が立ち去った後、志桜里はこうつぶやいていた。

 「あたし、いつかさっきの娘のような衣装をきてみたいなあ・・・」

 その時、てっきり俺は「キョウコ」が着ていたゴズロリファッションの事だと思ったが、それは違っていた。その時から志桜里は着ぐるみ美少女に憧れるようになっていたようだ。
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