アルテミスの着ぐるみ美少女たち

ジャン・幸田

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(6)二人の逃避行

イベント会場に行って

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 奇跡的な回復力により、リハビリは順調にいったが志桜里は一年近く療養生活を余儀なくされた。最初のうちは寝返りも出来なかったが見た目は普通に歩けるようにはなった。だが激しい運動が出来るまでには回復できなかった。だからバスケットボール選手の夢は諦めざるを得なくなった。

 その時、志桜里はなにを想っていたのかについて彼女の口から語られることは無かった。療養生活が終わりが見えてくるにつれ、元の明るい表情を見せるようになったからだ。でも本当は闇を抱えているのは確かだった。看護師から一人で過ごす時に時々嗚咽するほど泣いているという話を聞いていたから。はっきりしたことは分からないが、失ったチームメイトの事を想ってないていたのかもしれない。

 そんな志桜里を励ますために俺と志桜里の妹の香央里と一緒にイベントに連れ出すことにした。それは出版社共催によるイベントだった。その中に「アルテミスの美少女たち」の出版元があると聞いたからだ。

 その時、俺はあまり興味はなかったが志桜里の介助役ということで同行することになった。志桜里は車椅子だったから。それは不測の事態を懸念した医師からの指示だった。病院を介助タクシーに乗ってイベント会場に向かう車中で志桜里はこんなことをいった。

 「こうやって弘樹君と香央里と一緒に行くなんて何年ぶりかな? もう覚えていないなあ」

 そう忘れたような事をいったが俺は覚えていた。小学校の頃にいった海水浴以来だった。その時、従姉弟たちを女だと意識したことなんかなかったが。そのころから志桜里はずっとバスケットに青春をかけていたので俺や妹と一緒に遊びに行く事なんてなかった。ちなみに香央里は志桜里と違って音楽に興味があったので吹奏楽部所属だった。

 「ねえちゃん。それよりも何をしたい? 同人誌を見て回らない?」

 香央里はそういったが、それは彼女の趣味であったからだ。どうも姉を同じ趣味にハマらせたいという意図があったようだ。

 「そうだねえ・・・とにかく行きたい! というのが分からなくてね。そうねえ、ほらママが言っていたでしょ、美術館や博物館は事細かに見て行ったら全部は見れなくなるから、パンフレットで検討をつけておくとか、一通り見回ってから決めるとかしたらいいんじゃないのかな?」

 その会話を聞いて俺は特に興味を持たなかった。その時、親父のようなカメラマンになりたいとは思っていたが、被写体を何にするかについて迷いがあった。だから、なんかの参考になればいいかなという動機で村城姉妹についていったのだ。

 会場は都内のイベント会場で、ビル街の一角にあった。介助タクシーから志桜里と車椅子を降ろしてエレベータから降りた時、目の前のある人物に俺たちは目を奪われた。それが着ぐるみ美少女とのファーストコンタクトだった。
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