上 下
67 / 76
(外伝一)アルテミスの美少女着ぐるみ隊

雨音が響く寝室で

しおりを挟む
 基美の内臓から解放された志桜里は一人で帰宅の途についた。とてもじゃないけど、他の人と顔を合わせるのが出来なかった。友人の愛梨の顔を見るのも恥ずかしかった。だって、基美として愛し合ってしまった紘子の内臓だから、恥ずかしいお相手として何をやったのかを知っているので、顔をまともに見えなかった。

 だから、志桜里は一人で電車に乗って一人暮らししているアパートへ戻って、そのまま明かりもつけずにベットに潜り込んでしまった。その日は梅雨の走りのような雨が降り出して来たので、部屋の中には雨音だけが静かに響いていた。その中で志桜里は自分がまだ基美の内臓でいるような錯覚をしていた。

 全身を縛り付けるような肌タイは少し伸ばし始めた髪の毛さえも覆い隠してしまい、頭部は基美の大人びているが、少し憂いの有る表情のマスクに完全に覆われている。視界は曇りレンズになっている瞳越しなので制限されている。また内臓の自分がはき出す息はマスクの中に籠り顔には汗がにじんでいた。そして下は人形の衣服で覆われていた。

 そんな感覚がまだ身体に蘇っていた。そして感じたのは紘子との逢瀬だった。本来なら真里亜とすべきことを犬猿の仲であるキャラ同士で身体を重ねてしまった。志桜里はまだ処女なのに、人形として疑似的性交渉、しかも同性同士の百合百合をやってしまった! それを思うと罪悪感を感じていたが、同時に背徳的行為をする快楽に目覚めた喜びも感じていた。

 下腹部の股間同士を紘子と共有して激しい寄せては押し寄せるリズムを刻んでいたことを思い出して身も心も熱くなっていた。その高まりは、最初に友人から聞いて興味本位で一人で自慰行為をしたとき以上の事であった。その時、二人とも完全にタイツ地に覆われ、直接肉体同士は接触していないのに、なんであんなに感じるのか不思議なほど気持ち良かった。あれは、刺激に敏感だった? 視界が制限され触感が鋭敏になっていた? その理由はよく分からなかった。


 肌タイを着用して着ぐるみマスクを被ると、詩音などによれば、そんな快楽の境地に飛ぶ事はしばらくあるようだった。だから着ぐるみの内臓になると、多くの人は深みの池にハマったかのように、夢中になるという。そして着ぐるみ同士はキャラクターの心のままで愛し合っても平気になってしまうという。

 身体が火照りだした志桜里は、ふと基美の心と身体の関係を結んでいる真里亜が目の前にいるような気がした。真里亜はさみしがり屋で基美に母親と姉と、そし友人以上の恋人として基美に甘えているのだいつも。そして時には身体を重ねてしまう事もあった。身体を媒介にして心同士を交流するためだ。そして二人だけの精神世界へと旅だつわけだ。だから、身体を重ねて互いの心を慰め合っているのだ。

 想像の中の真里亜は先ほどの紘子と違い、肉体的なものよりも精神的に一体化するのを望んでいるようだった。でも、やることは身体の逢瀬だ。でも、真里亜との逢瀬は、なんとなく身体的快楽よりも精神的安寧をもたらしてくれた。だから基美と一体化した彼女の心は癒されていった。そして眠りの世界へと落ちていった、真里亜と共に・・・

 
しおりを挟む

処理中です...