【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!

ジャン・幸田

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前編

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 「わ、わたしが何をしたというのよ!」

 目の前には婚約者のトーマスと従姉妹のキャサリンがいた。伯爵家の執務室で私の目の前に立ちはだかっていた。

 私が伯爵家の臨時当主をしているのは、祖父と父が相次いで亡くなったためだ。本来なら数年程度在るはずの後継期間がなかったので、政府から公式の当主交代の承認が下りていないための措置だった。

 祖父が指名した後継者は私の父であるジョセフ8世であったが、そのあとの後継指名の書類を提出する前に亡くなったので、法定相続人である一人娘の私が臨時当主をしていた。女でも伯爵家当主になれるが配偶者が必要になるので、父は他家の次男だったトーマス・アンドリューを婿養子として婚約者に指名していた。なのに彼は従姉妹のキャサリンと出来ていた! もっとも彼に愛情は抱いていなかったが。


 「決まっているじゃないか? 君って無能だろ! それに法定相続人といったって無理があるだろ? 君のおじい様のジョセフ7世にはもう一人息子がいただろ? ここにいるキャサリン嬢の御父上が! 彼が相続する方がいいだろ!」

 キャサリンの父である叔父のジェイソンは父の弟だ。この伯爵家が持っている爵位の一つを譲り受けて男爵家として独立していた。なのに、彼は本家を乗っ取りに来たようだ。目の前に二人が差し出した私が伯爵家の相続人として不適格だとする告発状は明らかに捏造であり冤罪だった。私が相続権を剥奪されたら叔父が相続するはずだ。その悪だくみを確実に成功するため、私の「味方」になるはずの婚約者を娘に奪わしたわけだ。これらの書類を用意するなんて、若い二人には難しいはずだ。

 「そ、それで私はどうすればいいんでしょうか?」

 私はやつれたフリをして聞いた。どっちにしても彼らの望み通りにするほかなかった。

 「この二枚に署名しろ! ひとつは婚約破棄同意書で、もうひとつは相続権放棄及び伯爵家離脱宣言書!」

 「こ、こんやくはきい?」

 「そう婚約破棄! だって、この伯爵家の婿養子になるはずなのに、追放されるあんたに居られたらたまらんからな!」

 心の中で私はトーマスの私に対する口調が悪化しているのに呆れていた。まあ、捨てる女なんかゴミと一緒なんだと。どっちにしてもキャサリンと結婚するつもりだろう。私と違い庇護欲を掻き立てるような可愛らしくて・・・愚かなあなたたちは相応しい夫婦になれるだろうね。

 「わかりました。署名します」

 「判ればいいんだ。あんたは何も持たずに立ち去れ! 後で手切れ金ぐらいは恵んでもらうようにいってやるから、これから着の身着のまま出ていけ!」

 静かに署名した後、私は何も持たずに執務室を出て行った。その直後二人は歓声を上げていた。これから苦労するのはあなたたちだと思いながら・・・

 玄関を出るとそこに邪悪な表情をした叔父のジェイソンがいた。その表情から自分の悪だくみが成功したことを喜んでいるのが分かった。

 「おい! お前どこに行くんだ! 平民に落ちるお前の就職先ぐらい世話してやるから!」

 私はどうせ娼館にでも売りつけるつもりだと分かっていた。まあ、応じないと早くしないと消される可能性があった。平民の一人が野垂れ死ぬことなど珍しい事でもないし、下手人が分からないことも珍しくなかった。

 「結構です! せいぜいお幸せに!」

 憎まれ口をいう私に叔父は激しい憎悪をぶつけていた。生意気な小娘め! 頭が良くても地味な小娘! 自分のキャサリンの方が絶対可愛いのに! と。

 「お前! おい御者! こいつを捕まえろ!」

 ジェイソンの魔の手が近寄ろうとしたとき、一騎が猛スピードで近づくと私の身体を持ち上げた。そして、そのまま駆け出して行った。それ以後、私は公式には失踪したとされた。その後、私は死んだ事にされた。でも本当は叔父たちの計画を知った上での逃亡であった。

 私は馬の上にまたがり彼の背中に抱きついていた。彼と一生離れ離れにならないと心に誓っていた。
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