孤独な箱舟の惨劇

ジャン・幸田

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(一)幽霊船

03・少女A(3)

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 ディスはアリスの容姿がどこか懐かしく思っていた。全身拘束刑にされる以前の自分に関する記憶は曖昧だったが、彼女の姿はメイド服ではないかと思った。もしかするとアイドルだったかもしれないと思った。でも、彼女は自分が機械だと主張するのだ。自分の方が機械らしい容姿だというのにである。

 それはともかく目の前には全身拘束刑にされた人間の中身が無くなった状態で転がっていた。それって・・・いったいどうしてなんだ?

 「いったいなにが起きたというのだ?」

 ディズは訳が分からなかった。

 「この移民船が地球から出発して2021年目ですが、いまから半年前に条件に見合う植民先を発見したとメインコンピューターが判断しました。いまは植民先の惑星を公転する軌道にあります。定められたプログラムにより準備用のロボットが起動して次は開拓者となるべく人工冬眠中の、全身拘束刑の囚人を人工冬眠から覚醒しようとしたのですが、このような状態でして。無事だったのはディス、あなただけのようです」

 アリスは淡々といったが、それってなんなのか余計にわからなかった。

 「ちょっとまて! 俺たちは2000年も眠っていたわけなのか? その間に何が起きたというのか? わからないのかいアリス!」

 ディスは眩暈に襲われていた。もしかすると、この宇宙船の中に自分一人しまいないというのだろうかと思ったためだ。

 「それですが・・・情報が相当欠落している様です。実は、この宇宙船は元々全長数キロの小惑星を改造したもので、内部には居住区を設け表面には恒星間航行システムで覆われているのですが、なぜかメインコンピューターのあるブリッジと連絡が取れないのです。ですから、何が起きているのかさっぱりです」

 ブリッジと連絡が取れない? それっていったい何を意味するのか分からなかったディズであった。
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