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暗闇の中を

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 夜汽車は闇を疾走しているようだった。レールの継ぎ目の音と風を切り裂く音、時折汽車の汽笛が響いていたが、薄暗いランプに照らされた車内からは、外の闇はどこに自分がいるのか判断させてくれる材料を提供してくれなかった。

 私は二十銭を渡した男が何を言い出すのかを待っていた。しかし、男は何故かウトウトし始めた! 銭をやったのに! 怒りを込めて鉄拳を加えてやろうと思ったが我慢した。そのあと、しばらく男が起きるのを待っていたが無駄だった。私も眠ってしまうじゃないかと思って頑張ったが、一緒に眠りに落ちてしまった。

 それから時間がどれくらい経過したのか分からなかったが、目が覚めた時に瞼に飛び込んできたのは男が降りる準備をしていたのだ!

 「あのう、降りるのですか? 降りる前に教えてくれませんか、隠されたことを!」

 男は少し深刻そうな顔をして、こういってきた。

 「そうか、教えなきゃいけないのか? そのまま夢のままでいてくれた方が良かったが。まあ、しかたないなあ。お前さんはこれから広島に行くそうだが、いつ帰る?」

 私は、逃げようとしている気がしたが、のりかかった話を掴みたかった。だから、こういった。

 「それは、わかりません。先生の仕事が終わるまで分かりませんから。でも、そのうちもう一度ここを通ります」

 「そうかい、ならば、本当に話を知りたいのなら帰る日が決まったら、ここに手紙を出しな。案内してやるからな。それと、此処だけの話だからな、くれぐれも誰にも言ってはならぬ! 新聞記者にもな! いいな!」

 そういって男は鉛筆で粗末な紙に何やら書き始めた。その住所はどうも菩薩山がある村のようだった。そして名前は藤原喜多治とあった。そして男、いや藤原は広島県で最初に停車したところで下車した。その時、駅のホーム以外は漆黒の闇だったが、その闇の向こうに私が知りたい事がその先で待っていた。再び動き出した汽車によって私の願望は遠くに行ってしまったと感じていた。
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