人形の中の人の憂鬱

【１】アルバイト

（７）キャワイイ・パープル視点

　地方都市のスーパーでのショー。それは私が憧れていた演劇の世界とはかけ離れていた。スポットライトが当たるヒロイン。それが罪を重ねる悪女でもよかった。ここでは主役の一人であっても人間の役ではない。生きた人形のように振舞わないといけない。

　目の前のステージにやってくるのは主に女の子である。当時、アニメのショーは珍しく、どちらかといえば特撮ヒーローショーが多数だったので、認知度は少なかった。あとで知った事であるが、なぜこんな巡業が行われたかというと、その作品のスポンサーのお菓子メーカーの営業の一環だったという。

　そのキャワイイ・フォーは女の子4人組で、細かいキャラクター名は忘れたけどレッド、ブルー、ピンク、パープルの四人の魔法少女がいて、舞台で悪い人を懲らしめるという話だった。本当は変身前の4人の衣装も用意しないといけないけど、地方巡業なので強引にレッドだけ着替えるという設定にされていた。だから私がやるキャワイイ・パープルは変身後の姿のままだった。

　その時のショーでは四人の魔法少女のうち三人は小柄な男の役者がやっていた。だから私だけ別の更衣室が用意された。でもトラックの荷台の一隅をブルーシートで囲っただけであった。激セマな空間だった。

　「今日は10時半から一回目をやるからね」

　そういわれていたので、私は着替え始めた。一応、普段着で何度か練習を積み重ねてきたけど、衣装を着るのはその日が初めてだった。