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未来のヴィジョン

2・一炊の夢

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 「一炊の夢」 それはとある国のお話で、賢者に自分の将来について相談をした男の身に起きたとされる物語だ。男が賢者に仙薬を飲まされ横になってから、自分が波乱万丈の人生を歩み、立身出世を成し遂げ、ついには宰相にまで登りつめた後、子や孫に見送られて生涯を閉じる人生が成し遂げた! そう思ったが全ては賢者によって見せられた夢であり、その夢はカマドにかけられていたスープ鍋が煮えたぎるまでの時間しか経過していなかったという。そう人生は一瞬の事であった。

 そんな話をキャロルを思い出していた。そんな話に近い夢を見てしまったのだ。そのとき17歳だったキャロルが目を覚ます直前の自分の姿は恐ろしいものだった。

 極寒の草木が枯れ果てた荒野が続く風景、その片隅でひどくボロボロになった衣服を纏い寒さに震えていた。その身体は寒気によって枯れ病に犯され死に瀕していた。そして隣には自分が仕える女がいた。その女は断罪され辺境へ流刑にされていた。死を賜るよりも人道的な罰とされたが、実際は緩慢な死を与えられたにすぎない。彼女は壊血病により身体は蝕まれ、死神の運命の鎌によって命の炎がかき消されあの世へと連れ去られる寸前だった。

 その女、アンネローゼは貴族としての称号だけでなく家名を剥奪され、全てを奪われた犯罪者だ。彼女は断罪される前は可憐な花のように美しい衣を纏い優雅な化粧を施した肌は上流階級の殿方を魅了していた。しかし死の床の彼女は病によって夜叉か餓鬼か見紛うほどの憐れな乞食でしか見えなかった。

 「きゃ、キャロル! わらわは・・・・どうしてこんな目に遭わなければならないのよ?」

 ボロボロになった手をアンネローゼは咳き込みながら差し出した。その動きは恐ろしく緩慢でもはや身体に生命力など残っていないと自覚するほどだった。その手を合したキャロルの手も同じような肌をしていた、同じ病を患っていたのだ。二人の命の炎は荒野の片隅で消えようとしていた。そんな若い女と思われないほど病によってやつれボロボロになった二人は共に倒れてしまった。その時キャロルはこう言った。

 「あん、アンネローゼさま。それは自業自得というものですわ。それが原因で国民国家の敵として処断されたのですわ。言われたじゃないですか皇帝に”お前らは敵だ! 悪役は悪役らしく粛清されねばならない”と」

 そう言われたアンネローゼの瞳に最期の生命力を使うかの如く怨念の輝きが光放たれた。

 「悪役? そうだ悪役令嬢さわらわは! あのマガイモノの帝位についた男はそう言ったな! 国家の歴史にとってお前らは悪役と認定されたと! なによ、ちょっと派閥を間違ったぐらいで、連座しなきゃいけないのよ! それよりもキャロル。そちには申し訳ない、こんなわらわの侍女になったばっかりに運命を共にしなきゃいけないなんて・・・」

 二人がいた荒野の片隅は早すぎる夜の帳が降りていた。夜の闇が一日の五分の四をしめるこの世界に。二人はそこで朽ち果てて消えようとしていた、罪と罰の為に。
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