メイコンな彼女に振り回されて

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
5 / 12
序章・メイコンな彼女

美齢参上!

しおりを挟む
 慎司はそのまんま冥婚の儀式を受けた。冥婚は死んだ人間同士もしくは片方が死んでいる結婚であるが当然形式的なものである。だから中華風の結婚式を挙げても全く盛り上がらなかった。しかも式場が斎場なので陰気な空気が漂っていた。参列者は死者ばかりかのような雰囲気だった。式場の新婦の席に置かれた中華風の着るものがいない花嫁衣装が印象的だった。

 本当なら慎司は夕方のLCCの飛行機で日本に帰国するつもりだったが、明日にしてくれと言われた。交換条件は明日の昼に某大手航空会社のビジネスクラスに二人(!)予約してあげるというものだったが、もうこの世にいない新妻の席もあるのかと不思議であった。

 その晩、宿泊先に指定されたのは美齢の実家の一室だった。彼女の正体はよく分からないが、それなりに大きな家であったが、なぜか両親などはいなかった。だから広い屋敷に独りぼっちにされた。そこはまるで結婚初夜を迎えた雰囲気なのかもしれないが、かえって恐ろしかった。

 一人きりにされた慎司は、備え付けの冷蔵庫からビールを持ってきて一人きりで缶を開けていた。こんな風に一人で食事するのは日常的であり、この旅においても珍しい事でなかった。それにしても二十万円という現金に目がくらんで死んだ娘と結婚するなんてどうかしていると思って後悔していた。

 目の前のテーブルには美齢の写真と彼女が死の直前までしていた璧で出来た腕輪が置かれていた。彼女の顔は慎司の理想であり、本当なら生きているうちに出会いたかったと思っていた。しかし、慎司は生きてきた年齢イコール彼女ナシなので、どんなふうに女と付き合うのか想像できなかった。そんなとき、横に気配がしたので振り向くとそこには慎司が飲んでいたビール缶に口付ける娘がいた。

 「いつのまに、君が、その?」

 慎司がそういうと娘の方が近寄ってきてこういった。その娘はさっきみた花嫁衣裳を身にまとっていた。

 「決まっているじゃないのよ! 慎司、あなたの妻の美齢よ! 結婚してくれてありがとう! こうしてこの世に戻ってこれたんだから!」

 動く美齢に初めて会った慎司だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた エアコンまとめ

エアコン
恋愛
冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた とエアコンの作品色々

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...