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(三)運命の日

正午のニュース

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 「月刊レムリア」編集部に置かれたテレビのチャンネルは正午のニュースに合わせられていた。この日のトップニュースは黒い飛来物についてだった。突然画面が切り替わり首相の記者会見が行われようとしていた。首相の顔はこころなしか疲労困憊した様子だった。これから起こることを全て知ってるようだった。

 「国民の皆さん・・・いえ、この地球の市民の皆さん。これから申し上げることは人類全体の存亡にかかわる事です。ご存知のように衛星軌道上には魔女の箒星とよばれるもの・・・まあ、このあたりの説明は皆さんもご存知の事ですので省きます。
 いまから一時間前に魔女の箒星から世界中に黒い飛来物が無数に舞い降りてきました。皆さんのそばにもあると思いますし、いま触っているという方もおられるでしょう。
 率直に申し上げますと・・・わたくし石沼寛慈首相最期の言葉になるかもしれませんが、その黒い飛来物から離れてください! 離れなければ人ではない存在になります! 可能なら外からの侵入者が入れないようなところに隠れてください! 」

 その瞬間、中継映像が途切れてしまい「しばらくおまちください」というテロップが映し出された。

 「国府田さん、これっていったい?」
 近くにいた美優が視線を向け声をかけたが、国府田の顔はもうどうにもできないという表情だった。

 「これはなあ、いよいよ魔女の箒星の奴が地球侵略作戦を開始したというわけさ。このような事態になることは前々から分かっていたんだよ。分かっていたけど何もできなかった。ただ、それだけさ。さっきの黒い飛来物だがあれに取りつかれた人間は、このまえわしが書いたようになるわけだ」
 そう言って国府田はカップにコーヒーを注ぎ、がぶ飲みしていた。

 「それじゃあ、人類を機械に改造するわけというの?」

 「そうだ! 改造というよりも奴らからすれば改良だろうな。この惑星にあふれた歪んだ知的生命体を宇宙基準にするということさ。たとえるなら西洋機械文明が素晴しいと思い込んでいる現代の人間が江戸時代の日本人に教えようとするのと一緒の事だ」

 「そんな・・・知っていたのですか? なのに、どうして何もしなかったのですか」

 「ああ、でもアメリカ政府のエージェントと名乗るやつから脅迫を受けたのさ。公表するとただじゃすまないと。だからわしは新作を発表せずに田舎で隠遁生活していたわけさ。
 それに信じなかっただろ? 人類が機械生命体に改造されるなんて話を」

 「そうだけど・・・これから何が起きるというのですか?」

 「それは、言葉でいうより見た方が早いかもな。それにあんたは機械化人類にされるのも時間の問題さ。その時わかるさ」

 そういって国府田はまたコーヒーを飲んでいた。その行為は肝臓を壊し内臓機能が低下し余命が残っていない彼がしたやけ酒の代償行為であった。
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