終末の機械娘と猫たちと(完結)

ジャン・幸田

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ニャオの日常

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 球体の中でニャオは夢のようなモノを見ていた。彼女の理性は元は人間の脳漿だったものを電脳化した演算装置のなかに組み込まれていた。だから活動していない時はアイドリング状態に陥るので昔の記憶の電子データが蘇るわけだ。

 だが、それらは今のニャオにとって有益なものなど殆ど存在しなかった。単調な毎日の繰り返しでは必要ないからだ。唯一必要といえば、毎日寄ってくる猫たちの情報だ。この限られた世界にいる猫たちの寿命は恐ろしいほど短かった。だから、あっというまに世代交代していくので、季節が変わっていくたびに寄ってくる猫の個体は入れ替わっているのだ。

 ただ、確かなのは急激に減ることはあっても急激に増える事はないという事だ。ミャオが供給する魚はこの世界に存在する猫が生存していくために必要な食料のごく一部でしかないことだ。だから、多くの猫たちは狩りを行っているようであるが、そのとき命を落としているようだ。それと、伝染病が周期的に蔓延するので、個体数が大きく減る事もあるのだ。そんな自然淘汰に対してニャオは一切対処することはなかった。

 ニャオはそんな数百世代に及ぶ猫たちの世代交代を思い起こしていたのだ。しかしそれらは活用することのない情報だった。ニャオが何故、猫たちのために釣りを始めたのかという理由が分からないためだ。増やすわけでもなく、何かをするわけでもないのに、気まぐれな釣りを天気がいい時にしているのが、何になるかが分からないのだ。でも、辞める理由もなかったので繰り返しているだけだった。

 でも、最近ニャオの中にある情報がデータベースの中に浮かび上がっていた。それはこんなものであった。あと六年と二百十一日と13時間28分後にシグマ指令を実行せよというものだった。しかし、シグマ指令の内容がわからないのだ。どうも、その領域はブラックボックス化されているので、ニャオには検索できなかった。

 そんなことを考えていると、気が付けば球体の中にキジトラの子猫が入り込んでいた。そしてニャオの錆びだらけの胸の上で眠り始めた。この球体に猫が入り込んだのは今から十八年と三十八日前の黒猫以来だった。その黒猫の姿を最後に見たのは・・・

 そう思っているとキジネコの寝顔に何故かニャオの機械仕掛けの心が和むのが分かった。その和みの意味って何だろうとニャオが考えると自然と演算装置の機能が低下していった。深い眠りへと落ちて行ったのだ。
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