終末の機械娘と猫たちと(完結)

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
2 / 17
ニャオの日常

1-1

しおりを挟む
 ニャオの身体は金属に覆われていた。そして中身は・・・機械と生物が奇妙な融合をした構造であった。彼女が動けるのは内臓された超小型核融合炉の一種である ”永遠の生命炉” が生み出すエネルギーのおかげであった。そのテクノロジーを生み出した文明は愚かな最期を迎えて途絶えて久しかった。

 この世界がある地球という惑星にはもはや文明社会は存在しないようであった。少なくともミャオが存在する周辺は。ニャオが誕生したのは、その文明社会の終末期であった。彼女は人間の少女を生贄として生み出された悪魔の存在だった。そして何をしたのか? 彼女はその記憶を封印しているので分からない。

 この世界には四季が存在しているが、冬は温暖で夏はそれほど暑くならない穏やかな海洋性気候であり、四季の移ろいもゆっくりである。そして植物も常緑のものが多くを占め、とてもよく成長していった。その結果として、文明社会の痕跡は恐ろしい速さで消失していった。

 かつて文明社会が生み出した機械類は腐食し形を失い、建築物は崩壊しその上に数多くの植物が繁茂し根の下へと消えていった。そんな中で形を失っていないのがチャオが活動を停止している間過ごす球体だ。

 球体があるのは恐ろしく大きな岩の中にある洞窟で、強固な岩に繁茂する植物がないから守られているのに過ぎなかった。そこでミャオはずっと一人で過ごしていた、何百年もしくは何千年もの間。

 そんな長い時の中でニャオの精神状態が保たれているのは、思考の演算能力を大部分停止しているからに他ならない。もし演算能力が通常のままであったら、この無為で単調な日常の繰り返しに耐えきれないはずだ。孤独、そして絶望に・・・

 そのような演算能力の制限をしたのは、彼女自身なのか元々のプログラミングによるものかは分からない。でも、その代償として理性的で規則正しい行動を繰り返すものの、ほとんど創造的な思考をほぼ放棄していた。そして唯一の行動は魚を釣って猫たちが飢えないようにしてやる事だ。そんなことをしている理由は彼女すら忘れていた。やっていれば、何かが起きるという期待しかなかったし、その期待がなにかすら分からなかった。海辺で猫たちと待っているわけだ、その期待とやらを。

 球体の中で過ごしているニャオは全く動かなくなっている。動いているのは必要最小限の再起動に必要な機能、すなわち機械に巻き込まれた人間だった痕跡器官の保存機能だ。この機能がなければ機械生命体として生きていく事が出来なかった。彼女は機械でも生命でもない存在であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロボットウーマン改造刑を受けた少女

ジャン・幸田
SF
 AI搭載型ロボットが普及した未来、特に技能のない人間たちは窮地に陥っていた。最小限の生活は保障されているとはいえ、管理され不自由なデストピアと世界は化していた。  そんな社会で反体制活動に参加し不良のレッテルを貼られた希美は保安処分として「再教育プログラム」を受けさせられ、強制的にロボットと同じ姿に変えられてしまった! 当局以外にはロボット以外の何者でもないと認識されるようになった。  機械の中に埋め込まれてしまった希美は、ロボットウーマンに改造されてしまった!

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

機械娘として転移してしまった!

ジャン・幸田
SF
 わたしの名前、あれ忘れてしまった。覚えているのはワープ宇宙船に乗っていただけなのにワープの失敗で、身体がガイノイドになってしまったの!  それで、元の世界に戻りたいのに・・・地球に行く方法はないですか、そこのあなた! 聞いているのよ! 教えてちょうだい!

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

機械娘フェチ作品撮影!

ジャン・幸田
SF
 わたし、とあるプロダクションに所属するモデルだったの。一応十八禁作品出演OKとしていたけど、恥ずかしかったの。  そいで顔出ししないでもいいという撮影があったので行ってみると、そこでわたしはロボットのようになれということだったの。わたしはガイノイドスーツフェチ作品に出演することになった。

メタルノイド・シンドローム

ジャン・幸田
SF
 20××年、はるか彼方より人工物体が飛来し地球を周回する軌道を巡るようになった。  その日を境に恐ろしい災いが世界各地で起きた! 人類が突如として機械化される病”メタルノイド・シンドローム”が蔓延し始めたのだ。    軌道上の人工物体が関与しているのは間違いなかったが、人類を機械化する理由とは? 機械化された人類に未来があるのか?

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

処理中です...