【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田

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マネキン

このままずっと

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 若い女はこの全身タイツを脱いで帰宅したら警察に行こうと考えていた。こんなセクハラまがいなことをするんだから。でも、万引きしたことを警察にいわないといけなくなるから、やっぱダメなのかな? そんな事を考えていた。

  「ほう、なじんできたわね。とりあえずマスクを脱いでちょうだい。見せてあげるから」

  そういわれたので若い女はマスクを脱いだが、動きにくかったので自分の手が少し硬くなっているような気がした。女主人はタブレットにさっきまでの全身タイツ姿の若い女の姿を映していたが、それは本物のマネキンのように美しいものだった。

  「綺麗ですね、これが本当にわたしなの?」

  「そうよ、この全身タイツは女性の身体を美しい姿にするのよ。きれいでしょう!」

  「すいません。わたしをこんな姿にしてどうするのですか? 教えてもらえませんか?」

  「そうだった! じゃあもう一度マスクを被ってちょうだい。そうしたら教えてあげるから」

  そう促されたので若い女はマスクを被りウィッグを被った。すると不思議な事にさっきまでとは違い周囲の景色がそれなりに見えるようになった。あの女主人の顔もそれなりに見えたのだ!

  どういうことなのかを聞こうと思い若い女が口にしようとしたが、今度はしゃべりたくてもしゃべれなかったのだ! いったいどういうことなのよと戸惑っていると女主人が口を開けた。

  「その全身タイツはねえ人をマネキンに生まれ変わらせる魔法の衣装なんだよ。そうやって着ていると徐々に人間の身体をマネキンに変えてしまうんだ。あんた今外の景色がそれなりに見えるようになっているのだろう? 
  そしたらマネキンになったんだよあんたは。これからうちのブティックのマネキンとしてずっと過ごすんだからな。良いでしょ最新のファッションをいつでも着れるようになるのだから」

 その言葉に若い女は恐怖した! 自分はマネキンになってしまったんだと! その証拠に手足が動かないし、それに呼吸もしていない。しかし意識はある!
 そういうことは自分はモノに生まれ変わったのだというの? いくら万引きを見逃してもらうというにしても、あんまりじゃないのよ! そう思ったが、全身を白いマネキンの体表に覆われた若い娘の身体は硬化していった。

 そして、ついに言葉を発せなくなってしまった! 女主人はマネキンになった事を確かめるかのように全身を撫でまわしたが、もう若い娘は抵抗することも出来ず、そのまま考えるのを止めてしまった。考えても全て無駄だと悟ったからだ。

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