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(一)わたしゼンタイフェチ子よ

寝姿は家族に見せられない(3)

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 私は一気にゼンタイの手袋を肩まで上げた。その時可能な限りシワを作らないようにした。こういった手袋は真夏に半袖やノースリーブの服を着た女が日焼けしたくないから身につける真っ白い手袋に似てないわけでもないが、その時点で私の首から下はピンクになってしまった。その姿は全体レオタードというか、まあモジモジ君といった方が良いのかもしれない。

 モジモジ君はよくテレビのバラエティーなんかで使っていたアイテムだけど、子供の時はこれっといった感情を抱かなかった。ひいていえば学校の制服以上に個性のないものだなあとしか思わなかった。だってモジモジ君のタイツの色って大抵黒かったからだ! それで白い粉の中に落とされたりしたって、変に汚れが目立つだけじゃないのよ! そう思ったから夢中になることはなかった。

 それに対し私が今着ているゼンタイはカラーリングも豊富だし、縞々模様などもあるので個性を出そうと思えばできない事はなかった。まあ私が今着ているゼンタイはピンクなので「女の子」という記号化しているのかもしれないけど。はたまた宇宙人かなんかかな?

 首から下までゼンタイを着たところで私は、家族に寝姿を見られないように様子を見た。母はテレビの前でサスペンスドラマを録画したのを鑑賞中、祖母は就寝中、そして弟は試験勉強もしくは漫画の読書会中のようだった。わたしは部屋の鍵が閉まっていることを確認してマスクを被ったのだ。

 マスクを被ると私の視界はピンクに染まった。だってタイツ生地の繊維の隙間から周りを見るようになるのだから当たり前だった。この時点で私の姿を見れば足のつま先から頭のてっぺんまでピンクの生地に覆われた状態なので、このまま横になった寝姿は家族に絶対見せられないものだった。もし見たら祖母は卒倒し、母はヒステリーを起こし、弟は変態というに決まっていた。まあ、そんな私を受け入れてもらう必要もないけど。

 そして私は最後の仕上げに入り、開口部であった背中のファスナーを上げ始めた。ファスナーはゆっくり上げないといけないし、背中に両腕を回してするので結構難しいしキツイ作業だった。それにもまして難しいのは頭のファスナーだ。私はセミロングヘアなので頭の後ろでファスナーを上げる時に、よく髪の毛をファスナーが絡んで痛いことがしばしばあるのだ。何度もやっているうちに慣れてはきたけど、出来れば他の人があげてくれた方がいい作業だ。

 こうして私はゼンタイに包まれたゼンタイフェチ女へと生まれ変わった気分になった。部屋の明かりを消して布団の中に潜り込むと私はゼンタイに覆われた自分の身体を愛撫しはじめ、フェチを楽しみはじめた。
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