【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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結婚式をぼっちで挙げた花嫁は探偵をする(旧題:結婚式で勘違いしていたと破棄されたあとに)

【8】疑惑

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 この極北に近い島に向かう直前、ローズマリーはリチャードと密会していた。それは男女関係ではなく今回の事件の背景について説明を受けるためだった。一応ダグラスと婚姻中の身であるが、とりあえず情報が洩れる事がなさそうなホテルの一室に恋人同士に見えるように変装していった。そんな状況でも絶対一線を越えないリチャードはプロ意識が高かった。

 「うちのダグラスですが、一家が結婚式に出席して不在なのを勿怪の幸いとばかりに、ホッパー家の財宝を持ち出していました。しかも直ぐに発覚しないように偽物まで用意して。おかげで保険会社と飛行船会社から問い合わせが来るまで、うちの当主は気付きませんでした」

 そういってリチャードは飛行船に搭載されているであろう財宝のリストを見せてくれた。その中身は損傷しやすい絵画や陶器の類はなく、宝飾品や貴重な貨幣、それと文化的価値が高い希書だ。特に歴代のホッパー家の当主が収集してきた貨幣コレクションは、それだけで評価額が2億シリングもあった。数千枚の金銀で出来た硬貨で一般労働者数万人が一生かけて手にする賃金と同じ評価だ。

 「この写真のトリニティ王国のキャサリン女王大婚記念30ディナール大型金貨は、現存するのが二枚しかなくて、発行元のトリニティ王国政府から内密に2億シリングで譲渡するように打診されていたものです。もしかするとダグラスはこれらを高飛びの費用にしようとしたようです」

 「なんてことなの! なぜそのようなことを!」

 ローズマリーは自分の結婚を実家から財産を持ち出す機会に使われていたことに呆れていた。だから、来なかったんだと。

 「どうも、ダグラスはアンダービジネスにどっぷりつかっていたようです。それで損失をだしていたようで、現在調査中ですが、焦げ付きは2億シリング前後だと」

 「それじゃあ、私の夫になるはずだった男は借金の返済のために大それたことをしたわけ? それでついでに愛人のあいつと逃避行しようとしたわけ?」

 普段冷静なローズマリーも怒り心頭だった。来ない新婦を待つ不安、新郎がいないままの結婚式。相手のいない一人だけのハネムーン。全て返してほしかった。時間とかといった全て無駄になったものを。

 「ローズマリー様、申し訳ございません。ホッパー家当主から謝罪の手紙がここにあります。関係機関に事情説明するから、行かなくてもいいと。でも、希望すれば行っても構わないと」

 その手紙を読んだ後、ローズマリーの決断は北の地に向かう事だった。もしダグラスを見つける事が出来たら、自分の感情をぶつけるために。
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