40 / 54
幼稚な正義感の名の下で
卒業それから
しおりを挟む
ギャルソンと婚約破棄をして半年後、キャロル・オーガスタは卒業式を迎えていた。あれからの半年、キャロルをめぐる環境は激変した。赤い竜の血を受けづく娘の力に目覚めたためだ。その能力を学園内で使う事はないが、外見が激変したため、クラスメートたちの扱いが変わったわけだ。学校内の男どもは魅了されるし、女どもからは羨望、嫉妬などありとあらゆる感情を持たれるようになった。
卒業の日を迎えたクラスには、半年前から姿を消した者がいた。ギャルソンとサブリナである。生徒たちには個人的事情により転校したと教師は説明していたが、真相はみんな知っていた。ただ、触れる事がタブーとされていた。
半年前の違法幻覚誘発茶の密輸密売組織の摘発事件は帝都を大きく震撼させ、この学校の生徒も被害者がいたことも判明し、その余波は今も続いていた。マスコミの報道も今の続報されているが、一切振られていない事があった。ギャルソンとサブリナが事件の主犯ということだ。二人は未成年だったこともあり実名報道されず、背景もぼかされているので、犯罪にどの程度関与していたなどは、伏せられていた。
だが生徒たちは知っていた。ギャルソンの両親が経営していたモルトケ商会が関係していることを。ギャルソンもサブリナも姿を消したのも、それが原因なんだと。モルトケ商会は潰れはしなかったが、多額の罰金などの制裁を受け、モルトケ家の人間は全て経営から手を引く破目になった。
モルトケ家の人間は帝都の屋敷を引き払い、地方都市に移住したという。またサブリナは精神病院に強制入院させられたと噂されており、幻覚誘発茶の被害者だとされた。だから、やられてもないのにキャロルにイジメられたと主張していたと皆から納得された。また彼女の家族も帝都を離れかつて領地としていた辺境の寒村に移り住んだと噂されていた。
その年の卒業式の来賓としてウォレス・ビューローが来ていた。彼はこの学校のOBであるが現職の帝国首相であり、異例中の異例だった。表向きは学校創立185周年記念という本当に切りが悪い年数の記念を理由にしていたが、目的はキャロルであった。キャロルの将来を見届けるために。
「卒業生の皆さま、ご卒業おめでとうございます。私がウォレス・ビューローです。どんな地位にいるかはいいませんね、選挙運動になりますから。でも、これだけは忘れないでください。私の政治に意見するためにも、選挙には必ず行く大人になってください! 批判票もかまいませんから!
こんな政治家の話を聞くぐらいなら、みんな早く卒業パーティーに繰り出したいところでしょうから、手短にします。そちらの校長先生は私の恩師ですが、恩師よりも長くお話をするのは教え子として僭越すぎますから。
皆さまはここから旅立っていろんな世界に巡り合うと思います。あなたたちにとって広く素晴らしい世界になることをお祈りいたします。また自己判断となりますが身を亡ぼすような誘惑に惑わされることなく、出来るだけ正しい人生の選択をしてください。皆さんの将来が幸福に満ち溢れたものになりますように」
ビューロー首相の挨拶にはギャルソンとサブリナのようにならないようにというメッセージが込められているとキャロルは思っていた。婚約破棄の手段を誤り、他人を罠に嵌めよとして、二人の幸福だけを追求するため悪事に手を染め大勢の人々を不幸にした。
結果、破滅してしまった二人。一人は刑務所にもう一人は精神病院に送られてしまった。二人はもう二度と会う事はないという。キャロルは当然の報いだと思ってたが、可哀そうにも思えた。
どこかで自分の方から積極的に行動すれば結果は替えられたかもしれないという残念な想いもあった。でも全ては遅すぎた、もはや救いの手を差し伸べる事はできないところにいったから。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
卒業式の夕方、卒業を記念したパーティーが行われた。卒業生たちは互いに誰かをエスコートするかされるかするのが伝統だ。たいていは家族であるが親戚でも有名人でもよく、また恋人でもよかった。だから卒業式で若い男女がパーティーに来たらカップルとして公認され祝福されるわけだ。
先ほどのビューロ首相がエスコートしたのはキャロルの友人のセイラだった。それには何故なんだという声があがった。後でマスコミには首相もパーティーに出席するためだと説明された。そしてキャロルをエスコートしたのは、キャロルをあの日助けに来た警官でセイラの兄だった。その日エスコートに来たのはキャロルの強い願いだった。もちろん好きになったから。
キャロルの美貌はパーティー会場では目立っていた。卒業生だけでなく保護者からも注目されていた。それにしても隣の男は誰なんだと、会場の誰もが噂していた。ただ、彼は高級軍人の礼服を着用していた。キャロルの恋人であった。
「キャロル、綺麗ね。でも変わりすぎよ」
セイラは満面の笑みを浮かべていた。実はセイラも密かにキャロルを監視していた生徒の一人だった。そのことは先日キャロルにばれてしまった。兄のアウグストのせいで。でも、今日は緊張の為か普段と違って殆どしゃべらなかった。
「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」
「それよりも、もしかすると私たち姉妹同士になるのかしら? キャロルよりも少しだけ早く生まれたのにお義姉さんといわないといけないかな、私は」
それにはキャロルもアウグストも顔を真っ赤にしていた。
「セイラ! 必要のない事をいうなよ。今日は二人をお祝いするのが目的なんだから、お前ったら・・・」
「まだ、何も決まっていないのだから。でも、これからずっと一緒にいられたらと思っているのよ私たちは」
そうやってキャロルはアウグストに甘えるように身を寄せていた。もう二人の心は通い合っていた。
「若いのは良いな君たち! いろいろと遠回りしてきたけど、出会えたんだということだ。でも、あの能力は考えて使う事、もしかするとこの世界を救う事も滅ぼすこともありえるからな。大袈裟ではないぞ、政府を代表してそれだけはいっとくぞ! でも、今日はパーティーを楽しみなさい」
ビューロ首相はキャロルたちにそういった。彼は赤い竜の血を受けづいだ者の加護者として。ここに来るまでは契りを行わずその能力を開花してしまったキャロルの行く末を心配していた。でも、それは心配しすぎだったのかもしれないと思った。キャロルに選ばれたアウグストは魅力あふれる自分の甥だから。きっと上手くいくはずだと。最良のパートナーに違いないと確信していた。
そのあとのことであるが、様々な困難を乗り越えキャロルとセイラは本当の義理の姉妹となり、キャロルはアウグストと末永く大変幸せに暮らしたという。キャロルの物語については別の講釈の機会に譲ることにする。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
次回で「幼稚な正義感の名の下で」編の最終回とします。本当はキャロルの事を色々と書きたいのですが、「ざまあ」の趣旨から逸れますので、このあたりでやめにします。次回はギャルソンやサブリナのざまあその後の物語になります。よろしくお願いします。
卒業の日を迎えたクラスには、半年前から姿を消した者がいた。ギャルソンとサブリナである。生徒たちには個人的事情により転校したと教師は説明していたが、真相はみんな知っていた。ただ、触れる事がタブーとされていた。
半年前の違法幻覚誘発茶の密輸密売組織の摘発事件は帝都を大きく震撼させ、この学校の生徒も被害者がいたことも判明し、その余波は今も続いていた。マスコミの報道も今の続報されているが、一切振られていない事があった。ギャルソンとサブリナが事件の主犯ということだ。二人は未成年だったこともあり実名報道されず、背景もぼかされているので、犯罪にどの程度関与していたなどは、伏せられていた。
だが生徒たちは知っていた。ギャルソンの両親が経営していたモルトケ商会が関係していることを。ギャルソンもサブリナも姿を消したのも、それが原因なんだと。モルトケ商会は潰れはしなかったが、多額の罰金などの制裁を受け、モルトケ家の人間は全て経営から手を引く破目になった。
モルトケ家の人間は帝都の屋敷を引き払い、地方都市に移住したという。またサブリナは精神病院に強制入院させられたと噂されており、幻覚誘発茶の被害者だとされた。だから、やられてもないのにキャロルにイジメられたと主張していたと皆から納得された。また彼女の家族も帝都を離れかつて領地としていた辺境の寒村に移り住んだと噂されていた。
その年の卒業式の来賓としてウォレス・ビューローが来ていた。彼はこの学校のOBであるが現職の帝国首相であり、異例中の異例だった。表向きは学校創立185周年記念という本当に切りが悪い年数の記念を理由にしていたが、目的はキャロルであった。キャロルの将来を見届けるために。
「卒業生の皆さま、ご卒業おめでとうございます。私がウォレス・ビューローです。どんな地位にいるかはいいませんね、選挙運動になりますから。でも、これだけは忘れないでください。私の政治に意見するためにも、選挙には必ず行く大人になってください! 批判票もかまいませんから!
こんな政治家の話を聞くぐらいなら、みんな早く卒業パーティーに繰り出したいところでしょうから、手短にします。そちらの校長先生は私の恩師ですが、恩師よりも長くお話をするのは教え子として僭越すぎますから。
皆さまはここから旅立っていろんな世界に巡り合うと思います。あなたたちにとって広く素晴らしい世界になることをお祈りいたします。また自己判断となりますが身を亡ぼすような誘惑に惑わされることなく、出来るだけ正しい人生の選択をしてください。皆さんの将来が幸福に満ち溢れたものになりますように」
ビューロー首相の挨拶にはギャルソンとサブリナのようにならないようにというメッセージが込められているとキャロルは思っていた。婚約破棄の手段を誤り、他人を罠に嵌めよとして、二人の幸福だけを追求するため悪事に手を染め大勢の人々を不幸にした。
結果、破滅してしまった二人。一人は刑務所にもう一人は精神病院に送られてしまった。二人はもう二度と会う事はないという。キャロルは当然の報いだと思ってたが、可哀そうにも思えた。
どこかで自分の方から積極的に行動すれば結果は替えられたかもしれないという残念な想いもあった。でも全ては遅すぎた、もはや救いの手を差し伸べる事はできないところにいったから。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
卒業式の夕方、卒業を記念したパーティーが行われた。卒業生たちは互いに誰かをエスコートするかされるかするのが伝統だ。たいていは家族であるが親戚でも有名人でもよく、また恋人でもよかった。だから卒業式で若い男女がパーティーに来たらカップルとして公認され祝福されるわけだ。
先ほどのビューロ首相がエスコートしたのはキャロルの友人のセイラだった。それには何故なんだという声があがった。後でマスコミには首相もパーティーに出席するためだと説明された。そしてキャロルをエスコートしたのは、キャロルをあの日助けに来た警官でセイラの兄だった。その日エスコートに来たのはキャロルの強い願いだった。もちろん好きになったから。
キャロルの美貌はパーティー会場では目立っていた。卒業生だけでなく保護者からも注目されていた。それにしても隣の男は誰なんだと、会場の誰もが噂していた。ただ、彼は高級軍人の礼服を着用していた。キャロルの恋人であった。
「キャロル、綺麗ね。でも変わりすぎよ」
セイラは満面の笑みを浮かべていた。実はセイラも密かにキャロルを監視していた生徒の一人だった。そのことは先日キャロルにばれてしまった。兄のアウグストのせいで。でも、今日は緊張の為か普段と違って殆どしゃべらなかった。
「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」
「それよりも、もしかすると私たち姉妹同士になるのかしら? キャロルよりも少しだけ早く生まれたのにお義姉さんといわないといけないかな、私は」
それにはキャロルもアウグストも顔を真っ赤にしていた。
「セイラ! 必要のない事をいうなよ。今日は二人をお祝いするのが目的なんだから、お前ったら・・・」
「まだ、何も決まっていないのだから。でも、これからずっと一緒にいられたらと思っているのよ私たちは」
そうやってキャロルはアウグストに甘えるように身を寄せていた。もう二人の心は通い合っていた。
「若いのは良いな君たち! いろいろと遠回りしてきたけど、出会えたんだということだ。でも、あの能力は考えて使う事、もしかするとこの世界を救う事も滅ぼすこともありえるからな。大袈裟ではないぞ、政府を代表してそれだけはいっとくぞ! でも、今日はパーティーを楽しみなさい」
ビューロ首相はキャロルたちにそういった。彼は赤い竜の血を受けづいだ者の加護者として。ここに来るまでは契りを行わずその能力を開花してしまったキャロルの行く末を心配していた。でも、それは心配しすぎだったのかもしれないと思った。キャロルに選ばれたアウグストは魅力あふれる自分の甥だから。きっと上手くいくはずだと。最良のパートナーに違いないと確信していた。
そのあとのことであるが、様々な困難を乗り越えキャロルとセイラは本当の義理の姉妹となり、キャロルはアウグストと末永く大変幸せに暮らしたという。キャロルの物語については別の講釈の機会に譲ることにする。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
次回で「幼稚な正義感の名の下で」編の最終回とします。本当はキャロルの事を色々と書きたいのですが、「ざまあ」の趣旨から逸れますので、このあたりでやめにします。次回はギャルソンやサブリナのざまあその後の物語になります。よろしくお願いします。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。


愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる