【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ！”になった人々の話

幼稚な正義感の名の下で

連行された元婚約者

　目的通りにギャルソンはキャロルと婚約破棄する事が出来た。だが婚約破棄されたギャルソンは少年犯罪者として連行された。罪状はキャロルに対する誘拐拉致、強制性交未遂、名誉棄損に加え、国家が禁止した幻覚誘発作用のある茶の密輸と密売であった。特に後者は成人なら極刑になる可能性のある重罪であった。

　「どうして、こんなことに・・・俺は親父や兄貴のように商売で稼ぎたいだけだったのに・・・」

　護送車の中でギャルソンはうなだれていた。それに追い打ちをかけたのは真実の愛の相手だと信じていたサブリナとは二度と会えないという事に。それでは何のために稼いだり婚約破棄したのか・・・意味がなかったというのか、今までやってきた事は！

　「おい、ついたぞ！　さっさと降りろ！」
　
　ギャルソンが連れて来られたのは帝都警視庁の庁舎だった。帝都を護る砦に相応しい威圧感のある建物だった。その建物にある重大犯罪対策部門のフロワーに連れて来られた。

　「おい！　サブリナに会わせろ！　それに弁護士を寄こせ！」

　暴言を吐き暴れたためギャルソンは何人もの屈強な捜査員に羽交い絞めにされた。

　「取り調べる前に弁護士には会わせてやるぞ！　お前さんの親父さんが優秀な弁護士を寄こしてくれるそうだ。司法取引で結構罪を軽減してくれるそうだ。だから素直に従えば早く娑婆に出れるぞ。それと彼女だが諦めろ！　お前を抱き込んで密売組織網を運営していたからな。お前よりも重罪になるのは間違いないから、おそらく一生会えないか中年過ぎまで投獄されるだろうから、一緒になる気はなくなるはずだ」

　ギャルソンは何を言われているのかよくわからなかったが、ひとつわかったことがあった。もしかするとサブリナは俺を利用したというのか？　たしかにサブリナに言われるままにモルトケ商会の何人もの従業員に密売用の茶を入手させて倉庫に運ぶのを協力させたが、それらは俺を利用したというのか？　サブリナは自分の欲望のために色仕掛けで近づいてきたというのか。

　「嘘だ！　ウソだ！　デタラメいうなよ！　サブリナはいい女なんだから！　キャロルなんて地味な女よりも絶対何十倍も魅力的だったんだ！　それなのに・・・」

　ギャルソンはうちのめされ号泣しはじめた。それに対し捜査員は冷たく言った。

　「所詮、彼女に利用されただけなんだお前は。でも、しっかり罪を償ってもらうぞ。本当に司法取引で罪を軽くしてもらうには素直に取り調べに応じろ！　協力すれば十年ぐらいで娑婆に出れるかもしれないから」

　十年？　その年数はギャルソンにとって絶望的な年数だった。そんなに長く刑務所暮らしするなんて、いままで贅沢な暮らしをしていたというのに、絶望的だ！

　「十年？　なんで・・・」

　「決まっているだろ、それだけ悪い事をしたんだからな。本当なら懲役50年か死刑でもおかしくないぐらい悪い事をしているんだからな、反省しろ！」

　そういわれたギャルソンは脱力したため、捜査員たちに引きずられるように留置房にぶち込まれた。ギャルソンは少年犯罪者に身を落としてしまった。

　一方のサブリナは厳しい取り調べを受けたため正気を失ってしまったという。サブリナ自身も幻覚茶の虜になっていた。激しい禁断症状と取り調べのストレスで精神が完全に崩壊した。皮肉な事にサブリナは心神喪失者として、裁判前に免責が決まった。だが、それは一生涯精神病院に幽閉されることを意味しており、終生娑婆に出る事はなかった。当然ギャルソンは面会すら許されず会う事は叶わなかった。